第4話 噂の出どころ

 おかしい。


 何故か、昼になる前どころか、朝食前に俺がおねしょをした事が広まっている。

 あの時の会話はシスターとしかしてないので、シスターが漏らしたに違いない。

 いや。無実無根なハズなのに、針の筵である。勘弁して…


 ヒソヒソ声を無視して、さっさとパンとスープの朝食を食べ終わる。しかし、顔は真っ赤である。

 だが、ここで大きな声で否定しても無駄、どころかもっと広まるだろう。俺は知っているのだ。

 人の噂も七十五日だ。無視だ無視…。結構長いな…


 席を立ち。長居は無用と食堂から神父様の部屋に移動する。

 部屋の前に立ちノックすると。


「はい。空いてますよ」


 すぐに返事が来たので入ってしまおう。


「失礼します」


「はい。シスターから話は聞いています」


 何やらニヤニヤしている神父様。嫌な予感が。


「朝方、漏らしてシスターに泣きついたらしいですね」


「違います!」


 あのボケナスシスターめ!今度会ったらとっちめてやる!


「そう恥しがる事は無いですよ。その歳ではちょっと珍しいかもしれませんが、無いわけでは無いので」


「だから違いますって!」


 思わず大声で否定するが、神父のニヤニヤは止まらない。トラウマになったらどうしてくれようか。

 そして急に真顔になる神父。神父の仕事顔だ。


「それで。悪夢を見る様になったとシスターに聞きましたが」


「ええぃ!まだ言う…」


 急な変化について行けない。この神父ありでシスターありだ。まるで高低差の激しいジェットコースターだ。ジェットコースター…?


「どうしました?」


「…いえ。大丈夫です」


 頭の中に急に入ったノイズで混乱していると、コチラの顔を伺い様に聞いてくる神父。さっきの単語はなんだろうか。

 分からない。分からないが猛烈に嫌な予感がする。背筋を伝う冷たい影の様な。頭の中が混乱しそうになる。


「フム。さっきの感じですと、夢馬や悪魔が付いた様な痕跡は無いみたいですし。なんでしょうね」


「え?」


「悪魔付きの場合はですね。感情が激化すると黒いオーラの様な物が出るのです」


 驚いた。流石は百戦錬磨の神父様である。


「ソレはソレとして。寝る前の水は控えた方がいいでしょう」


 ぶっ殺す


「それで。何か覚えはございますか?」 


 頭に昇った血を抑えていると神父が聞いてきた。


「ふーーー…。よし。で、覚えとは?」


 深く息を吐いて心を落ち着かせる。ビークールだ。


「外部からでは無いなら、他の要因です。例えば何か拾ったとか」


 拾った…ああ、そういえば悪夢を見始める何日か前に、とある物を貰った覚えがある。


「旅人に石を貰いました。街道沿いで薪用の枝を拾っている途中で」


「石。石か…。ソレは今も持っています?」


「はい。捨ててもすぐに帰ってくるので」


 ポケットからビー玉の一回りくらい大きい黒い石を出す俺。ビー玉ってなんだよ。

 ソレを見た瞬間に頭を抱えだした神父。

 どうした?ハゲたか?


「あー。うん。そうか。うむ…」


 席を立ち窓辺まで歩く神父。不意に窓を開け空を見上げる。

 空気が悪かったのかな?そこからだと中庭しか見えないと思うけど。


「ちょっとその石をそこに捨てて見せて下さい」


「え?ええ、はい」


 窓辺に近づき反対側の壁まで届く様に投げる。すると、飛んでいる最中に消えたではないか。


「こんな感じです」


 ポケットから先ほど投げた石と同じ石をだす。


「ああー。うん、そうかそうか」


 窓の淵にうなだれ。頭を抱えだした神父。

 どうした?ハゲるぞ?



 

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