夢の旅立

第3話 見守る者


 とある孤児院の一室。

 六人部屋のベットの上。


 アラン・ベーカーが夢から覚める。


 悪夢。


 最近になって見始めた恐ろしい夢だ。


 全身が汗で濡れ気持ちが悪い。だがそれ以上に気分が悪い。何も入っていない筈の胃の中から込み上げてくる物がある。

 落ち着く為に荒い息を繰り返す。まだ周りは薄暗く夜明け前の様だ。この悪夢を見始めた最初の頃は、大声で飛び起きてしまい、寝ている皆を起こしてしまった事がある。


 今から寝ても、また悪夢を見てしまうだろう。それに、完全に目が覚めてしまった。ならば迷惑が掛からないように抜け出そう。そう思い、ゆっくりと寝床を出るアラン。

 

 音を立てないように出た部屋の扉をゆっくりと閉めていると。


「アラン?どうしましたか?」


「!…シスター。おはようございます」


 急に声をかけられて驚くアラン。声をかけたのがシスターだと分かると、一応あいさつをする。


「はい。おはようございます。それで、どうしましたか?」


「えっと…その…」


 シスターの問いに答える事が出来ない。まさか悪夢のせいで寝れない事を言うのは、アランのちっぽけなプライドが許さないのだ。


 そんな様子のアランにシスターはため息を付く。なんとなく察したようだ。


「おねしょですか。私は何も見てないのでさっさと井戸でズボンとパンツを洗って来なさい」


「違います!」


 思わず大声が出そうになったが、とっさに小声で否定する。しかし、すぐに訳を話さないと勘違いされたまま何処かに行ってしまう。

 しかも、このシスター。うっかりさんなのか、口が軽いのか、秘密にしていた事が、ついポロッと出てしまうシスターなのだ。

 『見ていない』と言ったが。今日の昼ごろには、自分がおねしょをした事になってしまうだろう。


「最近、夢見が悪いのです。悪夢を見るようになって」


「悪夢ですか。フム」


 シスターを考える様に顎に手を当てる。ジロジロとコチラを見ながら。やや下半身に集中しているのは痕跡を探しているのだろうか。


 おねしょはしていない。


「何日か前にも同じ様な事で起きてましたね」


 あの時は、ちょっとした騒ぎになった。さすがに覚えているようである。


「朝ごはんを食べた後、神父様に相談してみましょう」

「神父様に?お忙しいのでは?」


 この孤児院を運営し、かつ、教会としてケガや病気の治療。悩みの相談等を受け持っていて忙しい神父様に迷惑がかかるのでは?と考えた。


「何を言っているのです。私たちは家族ですよ。なら何の躊躇は要りません」

「シスター…」


 胸をふんぞり返しながら答えるシスターはかっこよかった。


「ですので、今から井戸に行って顔を洗って来なさい。神父様の時間を作る為に朝食の準備を手伝って貰いましょうか」

「シスター…」


 訂正。自分が楽をしたいが為なのである。


「ひとまず、神父様には話を通しておきます。朝食後、神父様の部屋に来るように」

「はい。シスター」


 夜明け前なのに明るい笑顔を見せるシスター。


「では、まず井戸の水汲みからしてもらいましょうかね」

「シスター…」


 自分は暗い1日がスタートしたのである。

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