第13話 無意味大時計

 ブラッケン団を脅かす咆哮が、城にあく十数の窓から滝のように漏れ出てくると、部屋にいたメグは床に横座りのできゃっきゃと喜んだが、一緒に積み木をしていたブラッド一号は真顔のまま立ち上がり、出て行った。廊下でますます大きくなる不快音の出どころを探しに階段を降りていくと、それは城の最奥の間にある大時計から鳴っているのだった。壁に据え付けてあるそれは直径が数メートルはある円形で、下から長い二本足のような振り子が出て、タップを踏むように左右に揺れている。今は騒音を発しているので、そのダンスの動きは完全に狂気の域だった。

 これは普通、遠くから見て分かるためのサイズだから、建物上部の目立つ場所にあるべきで、こんな屋内のどんづまりでコチコチしていても仕方がない。前の持ち主は何を考えていたのか。


 そう思ったとき、ちょうど来た凛博士が、時計を見て「あー、またお客か」と言った。実際はうるさすぎて聞こえなかったので、耳に「なんですか?!」と怒鳴って、彼女の部屋に連れて行ってもらい、ドアをしめてから改めて聞いたのである。

「フランクリ博士の置き土産」と腕組みする。「森に侵入者が来ると、感知して警報が鳴るのよ。君が来る前にも一回あったけど、そのときは恐れをなして帰ってくれたわ。今回はどうだか」

「ということは、この時計は森とつながっているわけですか?」

「そうなんじゃないの?」

 これにはブラッド一号もあきれた。

「知らないんですか?」

「いちいち調べる意味ないし。不審者を追っ払ってくれて便利だから、それでいいじゃない」


 ふと、時計の上の出っ張りに二羽のカラスがとまっているのが見えた。交代でてっぺんを突いていると思ったら廊下を飛んで窓から出て行った。

(ははあ、なるほど)

 彼は瞬時に理解すると外に出た。敷地の向こうに目をこらせば、森の先にかすかに動くものがある。城に近づいている連中だろうが、数分見ても変わらないので、踵を返した。敵がビビって近づけないでいるのは明らかだった。


 だが城に戻ろうとしたとき、はっと振り返った。目の前の茂みから、いきなり黒い塊がわっと飛び出た。思わず退いてよく見ると、そいつらは彼のなじみの連中と分かった。

「ブラちゃん?!」

 高見が驚くと、隣の榊は目を細めてにらんで言った。

「ここにいたのね」


 だがその目は、高見とは違うものを見ていた。ブラッド一号の背後に来ていたそれは、悪びれる様子もなく苦笑いした。

「おひさしぶり、エリちゃん」

 愛想よく言う桜庭凛を、榊エリ隊長は指さして言った。

「軍の命により、ブラッド一号を廃棄処分にする。任務を妨害したら、あんたも死ぬからね!」

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