第3話 技術を持つ者

「嘘つき…」


夜神リクは心の中でこの言葉を幾度か反芻し、自らの立場を確認すると、表情を変えずにカードを伏せた。


1分前まで、彼は「全員が生きて脱出する」という幻想を抱いていた。


だが今は違う。


眼前の8人とは面識がないが、今回死ぬべきは彼らだ。


「異論がなければルールを厳守せよ。今回のゲームには『嘘つきはただ一人だけ存在する』…」山羊頭が夜神の左隣のセクシーな女性を指差した。「君から順に時計回りで」


「え?私?」女性は瞬きすると、不満げに唇を尖らせた。


夜神が視線を移すと、左隣の女性から順番に話す構成は自分にとって不利だった。


彼は最後の語り手となる。


極度の緊張下では、人々は最初と最後の話者しか記憶に留めない。


しかし今異議を唱えれば目立ちすぎる。成り行きを見守るしかない。


セクシーな女性は眉をひそめ、大きな瞳をきょろきょろさせた末、ため息をついた。「わかったわ…でも私、昔から話すの苦手だから、下手でも責めないでね…」


重い空気が張り詰める中、彼女の声だけが響く。


女性は細い指で髪を耳にかけながら語り始めた。


「私は甜甜、職業は…ええと『技術職』よ。スキルで稼いでるんだから、恥ずかしくないわ」


その時初めて、甜甜という名のこの女性の服装が目に入った。汚れたローカットのミニドレスは、隠すべき部位をろくに覆っておらず、本人も意に介していない様子だ。


「営業中のエピソードとか話しても仕方ないけど…とにかくあの客が本当に変人で…店に設備があるのに車でやりたがるの。『刺激的だ』って…」


「車内仕事は初めてだったけど、高級車なのに中は狭くて汗だく。客の携帯が鳴りっぱなしなのに出ないから最悪…」


甜甜が続けようとした時、テーブル上の死体が視界に入り、震えながら息を整えた。


「…地震が来た時、まさかあんな巨大看板が落下するとは。車の上に直撃して、気絶しちゃった」


「地震」の言葉で、一同の表情に微妙な変化が走る。


「目が覚めたらここにいたの。本当に怖かった…」


甘えた仕草は明らかに男性向けに訓練されたものだった。隣の刺青男がたじろぎながら口を開いた。


「話続ける必要あるか?」


白衣の男がきょとんとする。「どういう意味だ?」


「この嬢が嘘ついたんだから、投票で決めりゃいい」刺青男は断言した。


「何言ってんの!?」甜甜が声を荒げる。「どこが嘘よ!」


刺青男は冷たい視線を投げかけた。「『甜甜』なんて偽名だろう。風俗嬢の芸名なんて『麗香』『あやめ』みたいなのばかり。本名隠してる時点で嘘だ」


甜甜の顔が紅潮する。「馬鹿言わないで!本名なんて何年も使ってないんだから!職場では甜甜しか通用しないわ!」


一同が沈黙する中、夜神の表情も険しくなった。


甜甜の語りに不自然さは感じられない。平坦なリズム、友人との会話のような調子。これは綿密に作り込まれた嘘か、あるいは真実しかあり得ない。


しかし刺青男の指摘で新たな可能性が浮上した。


「名前詐称」――論理性を必要とせず、見破りにくい嘘だ。


山羊頭のルール「嘘つきは一人だけ」が正しければ、他の参加者に気付かれぬよう、夜神自身が嘘をつく必要がある。


「張麗娟…これが本名よ」甜甜の声が震える。「ほっかいどう出身…本名で呼ばれても反応しないから!」


夜神は内心で首を振った。この女は思ったほど賢くない。山羊頭のルール通りなら、嘘つきは自分以外に存在しない。


「夜神」という珍しい苗字は印象に残りやすい。代わりに「李明」と名乗り、目立たないストーリーを組み立てれば、誰にも看破されまい。


勝負はついた。

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