第2話 嘘つき

女の悲鳴が止むと、人々の思考も突然中断した。

  さっきまで罵声を浴びせていた男たちも声を失っていた。

  もはや「違法」の問題ではない。目の前の怪人が本当に人を殺すのだ。

  沈黙が1分以上続いた後、山羊頭がゆっくりと頷いた。「良し、9人の皆さん、ようやく静かになったようだな」

  人々は青ざめた表情でいたが、誰も口を開こうとしない。彼の言う通り、今や本当に「9人」になっていた。

  夜神リは震える手で、自分の顔から薄黄色の物体を取り除いた。

  撃ち砕かれた脳みそは体温を残し、微かに脈打っていたが、数秒後には空気の抜けた風船のように生気を失った。

  「では自己紹介を」山羊頭は血塗れた指で仮面を指差し、「私は『人羊』、君たちは『参加者』だ」

  一同は呆然とした後、戸惑いの表情を浮かべた。『人羊』?『参加者』?

  「君たちを集めたのはゲームに参加させ、最終的に『神』を創造するためだ」山羊頭は淡々と語り続けた。

  この2つの発言に、人々は一斉に眉をひそめた。

  ここ数分の接触で、この男が狂人であることはほぼ理解していた。だがその狂人が『神』を作ると言うのか?

  「創造...どんな神だ?」筋肉質の若い男が緊張した声で問う。

  「『女媧』のような神さ!」山羊頭は膻臭を漂わせながら手を振り回し、「素晴らしいだろう!君たちは我々と共に歴史を目撃するのだ。かつて女媧が人間を創造し、天を補修して虹となった...我々は女媧を失ってはならん。だから新たな女媧を作る!偉大な任務が『神』を待っている!」

  声は次第に高揚し、興奮剤を打ったように熱狂的になっていく。

  「女媧...」若い男は眉を寄せ、事の重大さに飲み込まれながら「あなたたちは宗教団体か?」

  「宗教?」山羊頭は一瞬呆然とし、「宗教などより壮大だ。我々には『世界』がある!」

  この言葉に、再び重い沈黙が訪れた。

  筋肉質の男の質問は核心を突いていた。羊頭男の所業は邪教と変わらないが、大抵の邪教は新たな神をでっち上げるもので、女媧のような英雄的存在を使う例は稀だ。

  「では...」男は続けて問う「我々に何を『参加』させたい?」

  「言った通り、ゲームだ」山羊頭は即答した「勝てば、君たちの1人が『神』になる」

  「クソッ...」刺青男が落ち着きを取り戻したように呟いた「『封神演義』か?負けたらどうなる?」

  「負けたら...」山羊頭は手の血痕を見つめ「残念だが...」

  直接の回答はなかったが、意味は明白だった。

  負ければ死。

  生きて帰る選択肢など最初から存在しない。

  彼の定義する『神』になるか、頭を破裂させた青年のように死ぬか。

  「ではゲーム開始だ。今回のゲーム名は『嘘つき』」山羊頭は懐から紙の束を取り出し、参加者それぞれの前に1枚ずつ置いていく。

  次にペンを配ると、血痕のついたテーブルに白紙が赤く染まっていく。紙をひっくり返せば、赤い手形が絵の具のように広がった。

  「これから、各自がここに来る直前の最後の出来事を語ってもらう」山羊頭が説明を続ける「ただし注意点が一つ。9人中1人が嘘をついている。全員の話が終わったら投票を行い、8人全員が『嘘つき』を選べば、嘘つきが脱落し他は生存。1人でも間違えれば、嘘つきが生き残り他は全滅だ」

  「嘘つき...?」

  生死を賭けた状況で、本当に嘘をつく者がいるのか?

  「待て、戦略の相談は可能か?」筋肉質の男が問う。

  「どうぞ」山羊頭が頷く「ゲーム開始前に1分間の相談時間を認めよう。今使うか?後でか?」

  「今だ」男は即答した。

  「どうぞ」

  山羊頭がテーブルから離れると、男は首のない死体を避けながら一同を見回した。

  「誰が嘘をつくかは分からないが、このルールは乱暴すぎる。たった1人のミスで全滅だ。正解しても嘘つきが死ぬ。どう転んでも死者が出る。そこで全員が生き残る方法を思いついた...」

  一同が息を飲む中、男は結論を告げる。

  「全員が真実を語ることだ。9人とも真実を話し、投票用紙に『嘘つきなし』と書けば、ルール違反にならずに生存できる」

  白衣の男が指でテーブルを叩きながら反論する「素晴らしい案だが、前提は『君自身が嘘つきでない』ことだ。君をどう信じる?もし君が嘘つきなら、我々が『嘘つきなし』と書けば君だけが生き残る」

  「何を言ってる?」筋肉質の男が怒りを滲ませる「私が嘘つきならこんな提案するか?自分さえ助かればいいだろう」

  山羊頭が手を振り「時間です。会話終了」

  2人の男は不満げに黙り込んだ。

  「ではカードを引いてください」山羊頭がポケットからトランプ大のカードを取り出す。裏面には「女媧ゲーム」の文字。

  「これは?」男が問う。

  「『役職カード』です」山羊頭が哄笑する「『嘘つき』を引いた者は、必ず嘘をつかなければならない」

  「ふざけるな!」男が歯軋りする「こんなルールなぜ最初に言わない!?」

  「教訓だ」山羊頭が嘲笑う「私がルール説明を終える前に相談時間を要求したのは君たちだ。貴重な1分を無駄にしたのはそちらだろう」

  男は怒りを飲み込み、9人がカードを引き終わる。しかし誰も表を見ようとしない。

  このカードは生死を分ける。

  女性たちの手が震え、男たちも青ざめている。

  夜神リは深く息を吸い、そっとカードを手元に引き寄せた。

  ゆっくりと表を返す。

  そこには「嘘つき」の文字がくっきりと刻まれていた。

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