神境の終焉

@chenbiao229

第1話 空室

古びたタングステンランプが黒い電線で部屋の中央に吊るされ、かすかな光をちらつかせていた。

  静寂が墨を清水に垂らしたように、部屋中に広がっている。


  部屋の中央には大きくて古びた丸テーブルが置かれ、その中央には複雑な模様が刻まれた小さな置時計がチクタクと音を立てていた。

  テーブルを囲んで十人の服装の異なる人々が椅子に座っている。彼らの服は擦り切れ、顔にも埃が積もっていた。

  ある者は机に突っ伏し、あるいは椅子に仰け反り、皆深い眠りについている。


  その十人の傍らに、山羊の頭をかたどった仮面を被り、黒いスーツを着た男が静かに立っていた。

  古びた山羊仮面の奥から、興味深そうに十人を見つめる視線が漏れている。


  置時計が突然鳴り響いた。長針と短針が同時に「12」を指した。

  遠くの方で低い鐘の音が響き渡る。

  同時に、丸テーブルを囲む十人の男女がゆっくりと目を覚ました。


  彼らは周囲を訝しげに見回し、互いの顔を見合わせた。

  誰もこの場所にいる理由を思い出せない様子だ。

  「おはよう、九人の皆さん」山羊頭が先に口を開いた。「ここでお会いできることを嬉しく思います。あなた方は私の前で12時間も眠り続けていました」


  不気味な扮装の男の姿に、薄暗い光の中で皆はぞっとした。

  本物の山羊の頭を使ったかのような仮面は毛が黄ばみ、絡み合って固まっていた。

  仮面の目の穴から覗く狡猾な瞳が、不気味な笑みを浮かべている。


  山羊の生臭さと腐敗臭が混じった匂いが、男の身振りごたちんぽんに漂っていた。

  刺青だらけの腕の男は数秒間呆然とした後、ようやく状況の異常に気づいたように躊躇いがちに尋ねた。「お前...誰だ?」


  「皆さん同じ疑問をお持ちでしょう」山羊頭は嬉しそうに両手を振った。「では九人の皆様にご説明を」

  夜神理という名の若者は山羊頭から最も遠い席に座り、素早く室内を観察するとすぐに表情を硬くした。


  奇妙だ。この部屋はあまりにも不自然だった。

  ドアがなく、四方を壁に囲まれている。つまりこの部屋は天井から床まで完全に密閉されているはずなのに、中央にテーブルがある。

  それならば自分たちはどうやってここに入ったのか?

  人が運ばれた後に壁を築いたというのか?


  夜神理が再度周囲を見渡すと、床も壁も天井もすべて格子模様に分割されていた。

  もう一つ気になるのは、山羊頭が「九人」と言った点だ。

  丸テーブルを囲むのは明らかに十人。山羊頭を含めれば十一人になる。

  「九人」とはどういう意味か?


  ポケットを探ると、当然のように携帯電話は没収されていた。

  「説明など結構です」冷たい声の女性が山羊頭に向かって言い放った。「24時間以上の監禁は『監禁罪』に当たります。あなたの発言は全て証拠として採用されますわ」


  彼女はそう言いながら、腕についた埃を嫌そうに払っていた。監禁より汚れを嫌う様子が窺える。

  冷静な指摘に、一同は改めて状況を認識した。たとえ相手が一人でも、十人を拉致した時点で明らかな法違反だ。


  「待て...」白衣を着た中年男性が皆の思考を遮った。「我々は皆同時に目覚めたはずなのに、なぜあなたは『24時間』と断言できる?」


  落ち着いた声質だが、核心をつく質問だった。

  冷たい女は置時計を指差した。「この時計は12時を指していますが、私は深夜12時に就寝する習慣があります。最低12時間は経過している」


  更に壁際を指し示し続けた。「ドアのない密室を作るには時間がかかる。彼の言う12時間睡眠と合わせれば24時間は経過している計算です。何か問題が?」


  白衣の男は疑いの目を向けたまま頷かなかった。この状況でこれほど冷静な女が普通だろうか?

  黒いTシャツの屈強な青年が問いかけた。「十人いるのに、なぜ九人と言う?」


  山羊頭は黙ったまま答えない。

  「クソッ、人数なんてどうでもいい!」刺青男が机を叩きつけ立ち上がろうとしたが、脚がガクガクと震えて再び椅子に沈み込んだ。「この野郎、俺を怒らせるとどうなるか分かってねえだろ? 殺すぞ」


  男たちの表情が険しくなった。協力して山羊頭を制圧できれば状況は変わるかもしれない。

  しかし全員の脚が何かを注射されたかのように力が入らない。刺青男は罵声を浴びせるしかなかった。


  夜神理はまだ口を開かず、顎に手を当てて置時計を観察していた。

  これは単純な拉致事件ではない。山羊頭の言う「九人の参加者」に対し、十人目は何者か?


  6男4女の中に「拉致犯」が混じっているのか?

  山羊頭が突然動き出し、夜神理の隣に立つ若者の背後に回った。


  その青年だけが皆と違っていた。顔は埃まみれだが、幸せそうな笑みを浮かべている。

  山羊頭がゆっくりと手を上げ、青年の後頭部に触れた。


  青年の笑みがより不気味に歪んだ。何かを知っていたかのように目を輝かせている。

  鈍い音が響いた。山羊頭が青年の頭を机に叩きつけたのだ。


  桃白色の物体が絵の具を撒き散らしたように机いっぱいに広がり、全員の顔に血飛沫がかかった。

  青年の頭蓋骨は粉々に砕けていた。


  再び遠くで鐘の音が鳴る。

  夜神理は死者のすぐ傍にいた。温かく粘ついた物体が頬に張り付くのを感じた。


  自分では冷静なつもりだったが、今や震えを禁じ得ない。

  死者の右隣の女性は3秒間凍りついた後、悲鳴を上げた。その叫びが皆の理性を引き裂いた。


  人間の頭蓋骨を手の力で粉砕する山羊頭は、もはや「人間」なのか?

  あの華奢な体からなぜこんな力が?


  山羊頭がゆっくりと語り始めた。「十人用意した理由は...一人を使えば、皆さんが静かになるからです」

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