第10話水たまりに映る空

雨上がりの朝、

遥は通学路の角で立ち止まった。


舗道の割れ目にできた小さな水たまり。

その中に、透き通るような青空が映っていた。


「空って、こんなに近くにあったんだ」


しゃがみ込んで覗き込むと、

雲が風に流れるように、

水面の空もゆっくりと動いていく。


懐かしい光景、幼い頃の記憶が

遥の心の中で動きだす。


あの日も同じ場所で、

水たまりに映る空を追いかけていた。


隣には兄がいて、雲の形を動物に

見立てて笑っていた。


けれど、あの日を境に、

兄は空のように遠い存在になった。


ふと、風が吹いて水面が揺れる。

空が砕けて、波紋になって消えていった。


遥はそっと手を伸ばして、水に触れた。

冷たさの中に、懐かしさが混じっていた。

あの時と同じ冷たさだ。


涙が頬をつたう、

気にせず空を見上げる。


「おにい、空の向こうで笑ってる?」


見上げた空は高く澄み渡り、

まるで答えるように雲が微かに動いた。


水たまりはもう乾きかけていたが、

遥の中には確かに、

あの日の空が残っていた。



※アプリ書く習慣より

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