第8話約束だよ
雨がサラサラと降る放課後の教室で、
沙耶は陽一にそっと手紙を渡した。
「卒業しても、友達でいることは
ずっと変わらないでね。約束だよ。」
陽一は笑って軽くうなずいて見せたが
笑顔はどこか寂しげだった。
そのあと彼が教室の窓から
外を眺めている横顔を見つけた沙耶は
何故か胸を締め付けられほどの切なさを
感じた。
何かを惜しむようにグランドを見つめる彼が
たまらなく愛しく思えたからだった。
それから数ヶ月後、
沙耶のもとに陽一の訃報が届いた。
病気のことは、
誰にも言わなかったらしい。
彼は静かに、誰にも迷惑をかけずに、
ひとりで旅立ったのだった。
「ほんとに、まったく...
君らしいよ。
優しくて、強い君らしいよ。」
沙耶はひとり泣いた、
これ以上ないくらいに。
彼のいない風景は幾つもの季節を
繰り返し過ぎていく。
沙耶は心にぽっかりと穴が空いたまま、
大人になった。
そんな彼女は毎年続けている事がある。
卒業式の日にだけ母校を訪れること。
あの日と同じ教室、あの日と同じ席。
あの時交わした約束、彼と交わした笑顔、
誰もいない教室だから、ゆっくり話したい。
私が君を忘れない限り、ずっと
いつまでも君は私の大切な友達。
「約束、今も変わらず
…友達でいてくれて、ありがとう。」
今日はあの日と同じに
雨がサラサラと降っていたけど
今、その雨も止み、
陽射しが教室を明るく照らす。
あれっ、君が笑った。
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