第6話 静かなる森へ
静かなる森へ
葵は街の喧騒に疲れ、
声を失いかけた心を抱えて。
あの「静かなる森」へ向かった。
それは記憶に残る
不確かものだったけれど、
その場所は消えずに
目の前に存在してくれていた。
森の入り口に立つと、ここまでの道程の
騒がしさから解放されていくように音が一つ、
また一つと遠ざかり、やがて何もかもが
沈黙に包まれた。
葉のざわめきさえ聞こえない。
静寂が、葵をおかえりと迎い入れてくれている
ように思えるのは彼女の心がまるで洗い流された
ように感じたからだろうか。
しばらく歩くと、小さな池に辿り着いた。
水面を覗き込むと鏡のように揺らぎなく、
葵の顔を映していた。
だが、それは今の自分ではない、
あの頃の、幼い頃の笑顔を浮かべる自分だった。
葵はそっと池に手を伸ばした。
冷たい水が指に触れた瞬間、言葉にならない
感情たちでいっぱいになり、
そして彼女の体から弾け飛んだ。
森はただ静かにその様を受けとめたように、
まるで「それでいい」と囁くように。
静かなる森はそこに居た。
どれぐらいの時間あなたのそばにいたのかしら。
葵は呟く。森を出るとき、声を取り戻していた。
誰にも聞かれない、けれど確かな、
自分自身への言葉を。
もう一度初めから始めてみよう。
葵の横顔には少女のような微笑みが
甦っていた。
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