第2話すいません式には出ないでください
「すいませんが式には出ないで
くださいませんか。」
彼女は私にそう言った。
この時、スマホ越しだが
弟の恋人凛子の声を初めて聞いた。
凛子は弟の勤める商社の後輩で、先輩である
弟が凛子の教育係りになったことが
きっかけとなり付き合い始めて
結婚へと話しが進んでいた所だった。
そして、いま凛子からの電話が突然
かかってきたのだ。
彼女の言い分は、
自分の家族含め親類も名の知られた
大学出身者ばかり。
しかも、ほとんどが医師、弁護士、会社重役が
並んでいる。
彼女の父も大手出版社の重役だと言う。
「聞けば、
姉であるあなたは中卒で
家に引きこもっているなんて
とても私の家と釣り合わない。
だから、式には出てほしくない」
と言う。
まぁ、好き勝手言ってくれる。
私は返事をせずに曖昧に電話を切った。
確かに中卒なのだ。
高校は理不尽なイジメに遭い辞めた。
さらにそんな私を心配してくれた両親が
交通事故で急死した。
必然的に私は重度の鬱に苦しんだ。
だから、引きこもった。
それを救ってくれたのが弟だった。
私に寄り添うように暮らしてくれた。
そのお陰で在宅ではあるが
パソコンとネットで働けるようになった。
弟には感謝の気持ちでいっぱいだ。
だから、弟が結婚して幸せになるのなら
邪魔はしたくない。
けれど、私が式に出ないことを
黙っていることは難しい。
だから、仕方なく話をした。
できるだけ淡々と事実だけを
誇張などせずに説明した。
弟は私の話を黙って聞いて、
やがて口を開いた。
「姉さん、ごめん。
いい子だと思っていたんだ。
まだまだ人を見る力ないな。」
と私に謝罪してくれた。
結局の所、話は破談となった。
ただ、相手の親は多方面に顔が効くらしい。
私は弟に何か危害がないかと
心配である手を打った。
数日後、自宅のチャイムが鳴った。
「やっぱり来たね。」と弟が笑う。
相手は凛子の父親だ。
用件はシンプルだった。
1つは娘が私にとった態度への謝罪。
もう一つは契約破棄の撤回を
願うことだった。
私は、
実は在宅仕事で、ライトノベル作家として
出版社と契約し原稿を預けている。
書くことが好きで小説投稿サイトで作品を出していた。
それが人気を経て、めぐりめぐって
今では出版社の救世主と言われるまでになった。
そして凛子の父親はその出版社で働いている。
私は出版社に突然に契約打ち切りを言い渡した。
理由は
元彼女の父親が勤めるところへは
原稿を出せないと言った。それが社長の耳に入り、
元彼女の父親を呼び出すに至った。
社長は父親に私との契約が継続できないようであれば
君の立場は保てないと言われ慌てて私たちの家を訪れたのだ。けれど、娘も娘なら...と言うやつで
父親はやはり中卒である私に有名大学を出た自分が
頭を下げないといけないことが不満気のようで、
それが態度から現れていた。
だから、私は言った。
「あなたは中卒の私に頭を下げることができない。
私はそんなあなたのような人を受け入れられない。
だからそんな人がいる出版社には不信感しかない。
なので、今後、そちらの出版社と契約することはないでしょう。」
そうはっきり意思を示すと、何か言いた気に睨んでくる。弟が力づくで外へと追いやってくれたので
話はそこで終わった。後日、あの元彼女の父親は
役職を解かれ、地方へと移動させられた。そうなって
みて、初めて私の影響力を知り、慌てて何度もスマホに連絡をしてきたが、もちろん着信拒否をしている。
弟は早くに相手の素性が知れて良かったといい、
今後はより人を見て恋愛するよと笑っていた。
私は...このまま1人だろうな。
自分が恋愛できるのは
自身の作品の中だけかな。
一度も恋愛経験のない私が
恋愛小説を書いているなんて、
実に、苦笑するしかない。
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