第3話手紙を開いて
手紙を開いて
夏が向こうの空から手を振る頃
一人きりになって丁度一年になる。
母が他界してから生活は一変した。
僕は大学を辞め、その場しのぎの
アルバイトを繰り返していた。
元々目標もなく大学に通っていたけれど、
それは家での体裁を図るためであり、
本気で働く事への覚悟がないことでの
言い訳でもあったんだ。
母が逝き、言い訳がいらなくなった。
だから大学も辞めた。もともと学費を
払ってくれていたことへの後ろめたさも
あったしね。自分で学費から生活費やらを
賄えるわけもないしさ。
目的も将来の展望もなく暮らす中で
次第に部屋の空気を濁していった。
その時の生活は自分の望むことではなく、
息苦しさを感じていたんだ。
だから思いきって部屋を片付けてみた。
惰性で溜まっていったモノたちを
直感で要ると思わないモノを処分する
事で部屋を軽くしてみた。とにかく
呼吸のしやすい部屋にしたかったんだ。
その片付けると言う儀式の中で
発見したものもあった。それは
ずっと開くことのなかった机の
一番上の引き出しを開けた時、
一通の封筒が入っているを知る。
白地に朝顔が描かれた封筒だった。
封はされていず、そのまま一枚の
便箋を取り出した。手紙を開くと間違いなく
母の文字だった。たまらなく懐かしさに
胸が苦しくなった。
「あなたがどんな道を選んでも、
私はあなたの味方です。」
母より
便箋にはそれだけが書かれていた。僕の指は
少し震えた。気がつくと声を押し殺して
咽び泣いた。
きっと僕は誰かにそう言われたかったのだ。
今の自分でも肯定されたかったんだ。
それが母であった時、堪えることを放棄して
感情のままに泣いたんだ。
泣き疲れた後、頭の中が空っぽになっていた。
空っぽの頭の中に言葉が一つ転がり込んできた。
ここから始めよう、と
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