第9話 北野咲と一緒に帰る?

 この時、俺は思った。


 ――北野咲が……可愛い。


※※※


 部屋の時計を見た。

 部屋入ってから一時間は経っていただろう。

 

 この時、俺は彼女に好意を抱きそうだった。


 そんな俺に北野はこう言った。


「説明はしたけど、結局やることはほとんど人助けみたいなものよ。あまり構える必要もないわ」


 ――あ、話を聞いていたんだった。 

 俺は頭の中で妄想していたことを打ち消された。


 実際、その通りだった。これからする落とし物を届けることだって人助けなのだ。難しく考える必要はない。そう思えれば気が楽になってくるようだ。


「今日はもう遅いから話はここまでにして、明日から始めましょう」


北野はそう言って目の前のノートパソコンを片付けだした。


「……」


 この時、俺は声を掛けようか迷った。

 

――ここまで俺のためにしてくれているのだ。何か言わないと失礼になる。

そう俺は思った。だから。


「あの、北野さん」


俺は片付け中の彼女の背中を見て言った。それに反応した彼女は振り返った。


「何?」


北野は俺を怪訝な目で見た。


「これから、よろしくお願いします」


俺が彼女と向き合って頭を下げた。


「・・・・・・」


北野は黙っている。俺の態度に戸惑っているのだろうか。俺はそれを想像した。


「そうね、これから三ヶ月間よろしく頼むわ」


彼女はそう言って俺と同じように頭を下げたようだった。


 その時、風紀委員室の天井にある蛍光灯がチカチカと点滅していた。それが不器用な俺の姿を象徴しているのだと俺は感じた。


「……」


しばらく俺は黙っていたが、勇気を出して言った。


「あのさ」


俺は顔を上げた。


「一緒に・・・帰らない?」


俺は、そう言ってしまった。


 その俺の言葉に北野は驚いたのか、急に顔を上げた。

 彼女は俺をじっと見ていた。

 戸惑っているような様子だった。


「いや・・・嫌なら良いんだ」


 俺は言った。


 ――自分で言っているのに何だか俺も戸惑う。

俺がそう思っていた。


 すると北野は言った。


「嫌・・・じゃない」


これに、俺の心臓が早くなったようだった。


――え? ほんとうに? いいの?

俺は心の中で言った。


 彼女は恥ずかしそうな顔をして、俺から目を逸らした。そして。


「一緒に・・・帰りましょうか」


 北野はそう言った。


 そこに、彼女が普段見せるであろう厳しい表情はなかった。


※※※

 

 こうして俺と北野は一緒に帰ることになった。

でも、帰るときは何も話せなかった。ずっと黙って歩いていたと思う。


 家に着くのがもっと遅くなって欲しい。

 帰るのが遅くなると、母親が心配するかもしれないけれど、今は忘れたかった。

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