第六話:声なき呼び声

【SE:ざあ……ざあ……遠くで雨音がしている。】

【暗い部屋。机の上に開かれた本。少女がうつむいている。】


──あの夜から、夢を見るようになった。


黒い花が咲き乱れる丘の上。

月が、血のように赤い。

その中心に立っているのは、わたしによく似た少女――

けれど、その顔には、目がない。


「……たすけて……」


聞こえたのは、声ではない。

脳の奥に直接響くような、微弱な振動。

それなのに、胸を締め付けられるほどに、悲しかった。


【SE:ピンポーン。玄関チャイムの音】


「……こんな時間に?」


時計は夜の十時を指していた。

母も父も、出張中。わたしひとりしかいない。


──ガチャリ。


玄関を開けると、そこには――


「こんばんは。ごめんね、遅くに」


赤い傘をさしたままの彼が立っていた。

あの夜、屋敷で出会った青年。名を名乗らなかった彼。


「……君に、渡さなきゃいけないものがあって」


手渡されたのは、黒い花弁が挟まれた、古びた手帳だった。

開くと、そこにはこう書かれていた。


「咲かぬ花は贄となり、咲いた花は鍵となる。

月影の刻、境は再び開かれるだろう。」


「君にしか、開けられない扉があるんだ。──"贄の娘"」


【SE:ドクン……ドクン……と心臓の鼓動】


夜が、ざわめく。

なにかが始まる。

逃げられない――そんな確信だけが、胸にあった。

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