第4話:SE坂木涼介の密かな愉悦 ~冷徹なシーカーとの遭遇~
ゴブリンたちをあっさり(涼介にとっては、最高の「ご褒美」を享受した上で)退けた坂木涼介は、満身創痍ながらも充足感に満たされていた。全身の鈍い痛みは、彼にとって心地よい余韻となり、精神的な充足感をもたらしていた。
(この全身を駆け巡る痛み、たまらない……。まさに、至福の時だ!)
彼は、先ほどまでゴブリンたちがたむろしていた部屋の中央で、満足げに深呼吸をした。血生臭いダンジョンの空気も、今となっては芳醇な香りにすら感じられる。
拾い上げた棍棒の残骸は、もう原型を留めていない。粉々に砕け散っていた。
「うん、よく頑張ってくれたね、君も」
涼介は、残骸を地面にそっと置いた。まるで長年の相棒を労うかのような、不思議な感情が芽生えていた。ダンジョンでの戦いは、彼にとって単なる闘争ではなく、快感を得るための儀式と化しつつあった。
次にどこへ進むべきか。彼の視線は、部屋の奥に続く二つの通路に向けられた。一つは、先ほど進んできた通路と同じくらいの幅の、ごく普通の通路。もう一つは、なぜか薄いピンク色の光が漏れる、明らかに不自然な通路だった。
(ピンク色の光……。これは、何か新しい「ご褒美」の予感がするぞ!)
涼介のドMセンサーが、ピーピーと警報を鳴らしている。普通の通路を選ぶはずがない。彼の足は、吸い寄せられるようにピンク色の光を放つ通路へと向かっていた。
通路を進むにつれて、ピンク色の光は強まり、どこからか甘い香りが漂ってくる。ダンジョンに似つかわしくないその香りに、涼介は少しばかり警戒したが、それ以上に好奇心が勝った。そして、その好奇心は、彼のドM魂を根底から刺激していた。
通路の先は、やがて広大な空間へと繋がっていた。そこは、まるで巨大な洞窟のようだった。天井からは、ピンク色の結晶がいくつもぶら下がり、ぼんやりと周囲を照らしている。地面には、見たことのない奇妙な植物が群生し、所々から淡い光を放っていた。
「わぁ……」
涼介は思わず声を漏らした。ゲームやアニメで見たファンタジーの世界が、まさに目の前に広がっている。彼は、この非現実的な光景に、一瞬だけ本来の「システムエンジニア」としての冷静さを取り戻しかけた。しかし、彼のドMセンサーは、さらに激しく反応し始めていた。
この広大な空間には、一見すると何の気配もない。だが、彼の肌で感じる、微かな異物感があった。
(まさか、こんな広い場所に、何もないなんてことはないよな……?)
彼の予感は的中した。
空間の中央に、ひときわ大きく輝くピンク色の結晶があった。その結晶のそばには、一人の女性が立っていた。
彼女は、まるで妖精のような、薄いピンク色の羽を背中に持ち、軽やかなドレスを身につけている。顔立ちは幼く可愛らしいが、その手には、見るからに鋭そうな細身の槍を携えていた。その佇まいには、訓練されたシーカー特有の、研ぎ澄まされた雰囲気があった。
「え……?」
涼介は目を疑った。こんなダンジョンの奥深くで、しかもこんな可愛らしい女性シーカーと遭遇するとは。彼は、彼女の姿を目にした瞬間、背筋に冷たいものが走った。それは、恐怖ではない。彼のドM魂が、今まで感じたことのない種類の**「ご褒美」**を予感し、歓喜に震えていたのだ。
彼女の瞳は、涼介に気づくと、ゆっくりと細められた。敵意、というよりも、まるで不審な虫を見つけたかのような、侮蔑の眼差しだった。
「何の用かしら、異物」
透き通るような声が、洞窟に響き渡る。その声は、涼介の耳には、まるで天からの調べのように聞こえた。しかし、彼女の口から紡がれた言葉は、彼にとって最高の**「ご褒美」**だった。
(ひ、ひいいいっ!この冷たい視線!この声!まさか、可愛いシーカーからお言葉をいただけるなんて……!)
涼介は、内心で狂喜乱舞していた。彼の特殊な性癖は、「かわいい女性や美人からの痛み」に、通常の痛みをはるかに凌駕するほどの快感を感じる。この女性は、まさにその条件にぴったり当てはまる。しかも、彼女は「シーカー」だ。戦うことを生業とする彼女ならば、きっと最高の「ご褒美」を提供してくれるに違いない。
「あ、あの……僕は、その……探索者で……」
涼介は、言葉を詰まらせた。こんな状況で、自分のドM体質を悟られるわけにはいかない。しかし、彼の体は、彼女の冷徹な眼差しと声によって、徐々に熱を帯び始めていた。
女性シーカーは、涼介の返事を待たずに、細身の槍を構えた。その動作は、まるで舞を踊るかのように優雅でありながら、一切の無駄がない。訓練されたシーカーの動きそのものだ。
「排除させていただきます。あなたは、この神聖な場所には不要です」
彼女の言葉と共に、風を切る音が響いた。涼介は、その場で体が硬直してしまった。彼の頭の中は、今からやってくるであろう「ご褒美」への期待でいっぱだったのだ。
槍の切っ先が、涼介の左頬をかすめた。鋭い痛みが走り、生暖かい液体が頬を伝う。
「ひゃああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
涼介は、全身に走る電撃のような快感に、思わず叫び声を上げた。それは、ゴブリンからの鈍い痛みとは全く異なる、鋭利で洗練された痛みだった。
(美しい!完璧だ!可愛いシーカーからの、この痛み!たまらないぃぃ!)
彼の脳内では、ドーパミンが限界突破を告げ、彼を狂喜の淵へと突き落としていた。
女性シーカーは、涼介の突然の叫びに、眉をひそめた。彼女にとって、こんな反応を示す人間は初めてだったのだろう。その幼い顔には、微かな困惑の色が浮かんでいた。
「……何、その奇妙な反応」
彼女は、不審そうな目で涼介を見つめた。涼介は、頬の痛みを楽しみながら、何とか平静を装おうとする。
「い、いえ、なんでも……ありません!少々、びっくりしただけです!」
彼は、必死にごまかそうとしたが、彼の表情は、どう見ても「びっくり」している顔ではなかった。むしろ、歓喜に打ち震えているようにしか見えない。
女性シーカーは、涼介の様子に興味を持ったのか、攻撃の手を止めた。そして、ゆっくりと涼介に近づいてくる。その一歩一歩が、涼介にとっては心臓を締め付けられるような、極上の緊張感を生み出していた。
「あなたは……面白い」
彼女は、涼介の目の前で立ち止まり、じっと彼を見つめた。その瞳の奥には、先ほどの侮蔑に加えて、微かな好奇心が宿っているように見えた。
(うっひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!見つめられてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!)
涼介は、彼女の視線から、とてつもないプレッシャーと快感を感じていた。彼は、この女性シーカーが、自分のドM体質を刺激する、最高の存在であると確信した。
「あの、もしよろしければ、お名前を伺っても……?」
涼介は、恐る恐る尋ねた。彼女の冷徹な眼差しと、自分に向けられた好奇の視線が、彼の興奮をさらに煽る。
女性シーカーは、少しの間、涼介をじっと見つめた後、冷たく、しかしはっきりと答えた。
「――リリア」
その一言が、涼介の心臓を射抜いた。リリア。その響きだけで、彼のドM魂は震え上がる。
(リリア様……!この名前、最高の「ご褒美」だ……!)
彼女は、涼介の反応には構わず、背後に視線を向けた。その先には、淡いピンク色の光を放つ巨大な結晶がある。彼女はこの空間と、この結晶を守っているのだろうか。そして、涼介は、その結晶から、微かな「痛み」の波動を感じ取っていた。
リリアは再び涼介に視線を戻し、まるでゴミを見るかのような目で彼を一瞥した。
「シーカーにしては、ずいぶんとき奇妙な戦い方をするのね。それに、その叫び声。あなた、一体何者?」
その問いは、涼介にとっての、さらなる「ご褒美」だった。自分の秘密に迫られるスリル。彼は、冷や汗をかきながらも、その状況を楽しんでいた。
「い、いえ、僕はただの……しがないシーカーです!」
必死に平静を装う涼介。しかし、その顔は、頬を伝う血と、快感に震える表情で、どう見ても「しがない」シーカーには見えなかった。リリアは、涼介の答えに興味なさげに鼻を鳴らしたが、視線は彼から離れない。
この冷徹なシーカー、リリアの存在は、涼介のダンジョンライフに、計り知れない影響を与えるだろう。彼女がもたらす「ご褒美」は、果たして涼介のドM魂をどこまで高みへと導くのか。そして、この神聖な空間の奥には、一体何が隠されているのだろうか。涼介の新たな「ご褒美」を求める冒険は、まだ始まったばかりだ。
第4話登場人物紹介
* 坂木 涼介(さかき りょうすけ)
都内某IT企業に勤める、23歳のシステムエンジニア。ダンジョンでの戦いを「ご褒美」と捉え、ゴブリンたちをあっさり退けた。ダンジョンの奥で、謎のピンク色の光を放つ空間へと足を踏み入れ、そこで可憐な女性シーカー「リリア」と遭遇。彼女からの冷徹な視線と攻撃に、これまで感じたことのない**「可愛い女性や美人からの痛み」**という、極上の快感を味わう。彼のドM魂は、最高潮に達し、リリアの存在が新たな「ご褒美」の源となることを確信する。
* リリア(ドS女王様・仮)
ピンク色の光を放つダンジョンの奥深くで、空間を守るように佇む可憐な女性シーカー。幼い顔立ちにピンク色の羽、そして鋭い槍を携えている。彼女の瞳は涼介を不審な「異物」と見なし、排除しようとするが、涼介の異常な反応に困惑し、同時に微かな興味を抱く。その冷徹な視線と透き通る声は、涼介にとって最高の「ご褒美」となる。彼女がなぜこの場所にいるのか、この神聖な空間の真の目的は何なのか、まだ不明な点が多い。涼介にとっての最有力ヒロイン候補であり、物語を牽引する存在となるだろう。
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