第3話:SE坂木涼介の密かな愉悦 ~ゴブリンたちの困惑~
満身創痍でニヤつく坂木涼介の姿に、ゴブリンたちは困惑していた。目の前の人間は、自分たちの猛攻を浴びながら、なぜか嬉しそうにしている。通常の獲物なら、とっくに恐怖に震え上がり、命乞いをするか、死んだふりをするかのどちらかだ。
「な、なんだコイツ……?」
リーダー格のゴブリンが、初めて知る異質な存在に戸惑いの声を上げた。他の二体も、警戒しながらも、次の行動をためらっている。
涼介は、そんなゴブリンたちの様子を楽しみながら、ゆっくりと立ち上がった。全身が軋み、鈍い痛みが駆け巡る。
(うっひゃぁぁぁぁぁぁぁ!この痛み、最高だぜぇぇぇぇぇ!)
彼は、もはや痛みそのものをエネルギーに変えているかのようだった。
「さて、そろそろ僕のターンにしようか?」
涼介は、先ほどゴブリンから奪った棍棒の残骸を構えた。その表情は、まるで残業中にようやく一区切りついて、ようやく自分の趣味の時間に突入できたかのような、晴れやかなものだった。
彼が最初に向かったのは、リーダー格のゴブリンだ。斧を振り回す大振りの攻撃は、確かに威力があるが、同時に隙も大きい。涼介は、その隙を狙うように、ゴブリンの懐に飛び込んだ。もちろん、正確な武術など学んだことはない。ただひたすらに、痛みの経験から得た**「ここは避けきれないけど、攻撃を食らえばいい」**という謎の判断基準に従っていた。
リーダーゴブリンの斧が、涼介の肩をかすめる。
(んぎゃああああああああああああああああっ!いいぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!)
その際、彼はわずかに体勢を崩しながらも、棍棒の残骸をゴブリンの腹部に叩き込んだ。手加減など知らない。ただひたすらに、自分が受けた「ご褒美」の快感を、相手にもお返しするつもりだった。
「ぐっ、があっ!?」
不意打ちに、リーダーゴブリンがうめき声を上げる。その隙に、涼介は続けて棍棒を振り上げた。彼の動きは、決して洗練されているわけではない。しかし、痛みに耐え、快感に変えるという異常な集中力と、無意識に身につけた危機回避能力が、彼の動きを支えていた。
残りの二体のゴブリンが、慌てて涼介に襲いかかってくる。涼介は、その攻撃も敢えて受け止める。
(ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!背中も効くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!)
背中に衝撃を受けながら、彼はもう一体のゴブリンの足元を、棍棒で払った。バランスを崩したゴブリンは、そのまま転倒する。
「おっと、そこは危ないですよ」
涼介は、まるで心配しているかのような口調で呟いたが、その表情は愉悦に満ちていた。そして、転倒したゴブリンの頭上に、容赦なく棍棒を振り下ろす。彼の行動には、もはや「倒す」という目的だけでなく、「より多くの快感を享受する」という明確な意思が働いていた。
ゴブリンたちは、涼介の異常な戦い方に、完全に戦意を喪失し始めていた。攻撃しても嬉しそうに叫び、反撃は容赦がない。こんな人間は、今まで出会ったことがない。彼らは、目の前の男が、自分たちよりもはるかに狂気に満ちていることを悟ったのだ。
「あ、あれ?もう終わりですか?せっかく盛り上がってきたのに……」
涼介は、次々と倒れていくゴブリンたちを見て、少し不満そうに呟いた。彼の顔には、微かな汗が浮かんでいるが、その目はまだ「ご褒美」を求めている。
結局、三体のゴブリンは、涼介の異常な粘り強さと、痛みを恐れない戦い方によって、次々と地に伏した。涼介は、最後に残ったリーダーゴブリンが息絶えるのを確認すると、深く息を吐いた。
「ふぅ……最高のストレス解消だ」
彼は満身創痍の体で、満足げに笑った。ダンジョンは、彼の人生に、とてつもない快楽をもたらしてくれたのだ。
第3話登場人物紹介
* 坂木 涼介(さかき りょうすけ)
都内某IT企業に勤める、23歳のシステムエンジニア。ダンジョン内での戦いを「ご褒美」と捉え、ゴブリンたちの猛攻を浴びることに喜びを感じる。痛みに耐えることで、無意識に潜在的な身体能力や危機回避能力が覚醒しつつあり、ゴブリンたちを困惑させるほどの「異常な強さ」を発揮し始めた。彼のダンジョンでの目的は、ダンジョン攻略ではなく、あくまで「ご褒美」を探し求めることにある。
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