第2話:SE坂木涼介の密かな愉悦 ~ゴブリンからの「ご褒美」~
ダンジョンの入り口をくぐると、外とは全く異なる、生臭く湿った空気が涼介の鼻腔をく刺激した。
(この匂い……たまらねぇぇぇぇぇぇ!これがダンジョンの醍醐味だぜぇぇぇ!)
彼は、まるで高級レストランの香りを嗅ぐかのように、深く息を吸い込んだ。彼の足は、慣れたようにダンジョンの通路へと進んでいく。
ダンジョン内は、薄暗い。天井からは、水滴がポタポタと落ちる音が響き、不気味な静寂が支配していた。涼介は、スマホのライトを頼りに、慎重に、だが期待に満ちた表情で奥へと進んでいく。彼の目的は、モンスターを倒して報酬を得ることではない。あくまで、最高の「ご褒美」を見つけることだ。
進んでいくうちに、彼は微かな気配を感じ取った。ダンジョンに慣れたシーカーならば、すぐに警戒態勢に入るだろう。だが、涼介の顔には、むしろ喜びの色が浮かんでいた。
(来たっ!気配だ!今日の「ご褒美」が、いよいよ姿を現すのか!?)
彼のドMセンサーが、ピーピーと警報を鳴らしている。
通路の先には、わずかに開けた空間があった。そこにいたのは、三体のゴブリンだ。緑色の肌、歪んだ顔、そして手には粗末な棍棒や斧を持っている。彼らは、涼介の姿を認めると、警戒の唸り声を上げた。
「キシャァァァァァァァァ!」
リーダー格のゴブリンが、奇声を発して涼介に襲いかかってきた。その手に持った棍棒が、涼介の頭上へと振り下ろされる。涼介は、それを避けることなく、両腕で顔を覆い、全身で受け止める構えを取った。
(うっひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!来た来た来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!)
彼の脳裏に、鮮烈な快感が閃光のように走る。全身の細胞が、歓喜に震え上がった。
ゴッ!
鈍い音が響き渡り、涼介の体が大きくよろめいた。棍棒の直撃を受けた左腕には、早くも青紫色の痣が浮かび上がる。
(くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!この鈍い痛み!たまらねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!)
涼介は、快感に顔を歪ませながら、ゴブリンを見つめた。
残りの二体のゴブリンも、涼介の様子に怯むことなく、襲いかかってくる。一体は斧を振り上げ、もう一体は体当たりを仕掛けてきた。涼介は、その全てを、文字通り全身で受け止めた。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!背中も効くぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
背中に衝撃を受けながら、彼は快感に身を震わせた。
ゴブリンたちは、涼介の異常な反応に困惑していた。自分たちの攻撃を浴びて、なぜこの人間は苦痛ではなく、喜びの声を上げているのか。彼らの歪んだ顔に、初めて知る異質な存在への戸惑いが浮かんでいた。
涼介は、満身創痍の体でニヤリと笑った。彼の体は傷だらけだが、その瞳の奥には、どこまでも深い快楽が宿っていた。
(ああ、最高の「ご褒美」だ……。この痛み、たまらない……!)
彼は、もはや痛みそのものをエネルギーに変えているかのようだった。
「さて、そろそろ僕のターンにしようか?」
涼介は、地面に落ちていたゴブリンの棍棒を拾い上げた。その表情は、まるで残業中にようやく一区切りついて、自分の趣味の時間に突入できたかのような、晴れやかなものだった。彼は、ダンジョンという非日常の空間で、彼の究極の秘密を心ゆくまで満たしていた。
第2話登場人物紹介
* 坂木 涼介(さかき りょうすけ)
ダンジョンに入り、ゴブリンとの戦闘で念願の「ご褒美」を享受する。ゴブリンからの攻撃で満身創痍になるも、その痛みを快感に変え、恍惚の表情を浮かべる。痛みそのものをエネルギーに変えるかのような、異常な耐久力と精神力を見せ始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます