第5話 好きだから、悔しいんだよ
昼休み。
友達と話してたら、後ろの方から聞こえてきた声に、自然と耳が反応した。
「佐倉くん、かっこよくない?」
「うんうん、この前さ、プリント渡したら“ありがとう”って言ってくれて、それだけで一日分ときめいた!」
——あぁ、まただ。
最近、女子たちの間で佐倉くんの話題がよく出るようになった。
それは、彼が変わったから。
無愛想だったはずなのに、最近ちょっと優しくなったって。
その理由が、自分だとしたら——なんて、そんなの思い上がりかもしれないけど。
でも、心がざわつくのは止められなかった。
放課後、例によって私の隣に座った佐倉くん。
でも、今日は私の方がいつもと違った。
「……なんか元気ないな。どうした?」
「別に。……なんでもない」
「嘘。言ってみ?」
私は思わず、言ってはいけないことを口にした。
「……佐倉くんって、モテるんだね。最近、いろんな子から話しかけられてるでしょ?」
佐倉くんは、一瞬きょとんとした顔をしたあと、ふっと笑った。
「やきもち?」
「ち、ちがっ……!」
「ちがうなら、そんな顔しないだろ」
それが悔しくて、私は思わず顔を背けた。
「……だって、他の子に笑いかけてた。私以外の子にも、優しかった」
「……」
「なんで、私だけじゃダメなの?」
その言葉が、教室の空気に落ちた瞬間——
佐倉くんの手が、私の手をぎゅっと握った。
「……俺が笑うのは、おまえに会う前と、会った後で違う」
「……え?」
「おまえと話すときだけは、本気で嬉しい。
それ以外は、ただの顔」
まっすぐな瞳に見つめられて、私は息を呑んだ。
「好きだから、悔しいんだよ。俺だって」
「……え?」
「他のやつと笑ってるおまえ見たら、俺、ほんとムカつく。……だから、気持ちわかるよ」
そんなふうに言われたら——もう、涙が出そうになるじゃん。
「じゃあ……お互いさま、だね」
「うん。だからもう、心配すんな。
俺が好きなのは、おまえだけだから」
ドクン、って心臓が跳ねて、
その音が彼に届いてないか、不安になったくらいだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます