第6話 うるさいな、好きにさせてよ
「ねぇねぇ、最近さ〜、佐倉くんと篠原さんって仲良くない?」
「え? 隣の席でいつも喋ってるよね? てかあれ、絶対なんかあるでしょ」
そんな声が、最近よく聞こえるようになった。
クラス中に広まりはじめた、私たちの噂。
昼休みも放課後も、ちょっと話すだけで「また一緒だ〜」なんて言われる。
別に悪いことしてるわけじゃないのに、なぜか胸がチクっとする。
放課後、いつもの席。
私が少し黙りこんでいると、佐倉くんがこっちを覗き込んできた。
「またなんか言われた?」
「……うん。『ラブラブでいいね〜』とか、からかわれて」
「ふーん」
「……でも、別にそういうんじゃないよね?」
その言葉を出したとたん、自分の胸がズキッとした。
どうして、こんなに苦しくなるんだろう。
佐倉くんは、静かに立ち上がって、私の席の前にしゃがんだ。
そして、目線を合わせるように言った。
「うるさいな、他のやつなんかどうでもいいじゃん。
俺は、おまえのこと、好きにさせてよ」
「……え?」
「俺、おまえといる時間が好き。話してるとき、笑ってるとき、全部」
その声は、いつもより少しだけ震えてた。
だけど、すごく、まっすぐだった。
「……好きって、それ……」
「……恋の、方だよ」
その瞬間、時間が止まったみたいだった。
胸がドクドク鳴って、視線を逸らすこともできない。
そして——彼の顔が、少しずつ近づいてきた。
心臓が爆発しそうなのに、なぜか目が閉じられなくて。
唇が、ほんの少しだけ開いてしまって——
「……篠原さん!」
ガラッと教室のドアが開いて、友達が顔をのぞかせた。
「えっ、ごめん……あ、あれ……?」
ふたりして、慌てて距離を取る。
私は、顔が熱くて熱くて、何も言えなかった。
でも——
「……また、あとでな」
佐倉くんはそう言って、ほほ笑んで去っていった。
キスは、しなかった。けど。
あの距離と、あの空気と、あの言葉は——
もう完全に、恋だった。
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