第4話 手、つないでみる?

その日の放課後は、空が少し曇っていた。


「……送ってく」


教室を出ようとしたとき、佐倉くんが言った。

突然すぎて、思わず足が止まる。


「えっ、いいよ、一人で帰れるし」

「でも俺、今日すごく“そういう気分”なんだよな」


「そういう気分……?」


「おまえと一緒に帰りたい気分」


ズルい。それ、反則。

こっちはもう、鼓動が全部バレそうなのに。


「……じゃ、ちょっとだけね」


* * *


歩き慣れた帰り道。

だけど、今日は隣に佐倉くんがいるってだけで、景色が違って見える。


「なあ」

「ん?」


「……手、つないでみる?」


「はっ!?」


思わず立ち止まった。

佐倉くんは、ちょっと照れくさそうに笑っていた。


「いや、やっぱナシ?」

「……そういうの、簡単に言うもんじゃないって昨日も言ったでしょ」


「うん。でも、言いたくなったんだよね。今」


そう言って、彼はそっと手を差し出してきた。


ほんの少し、指先が触れただけで、全身がふるえた。


「……じゃあ、5秒だけ」


「マジ? やった」


私がそっと手を重ねると、佐倉くんの指が、ぎゅっと優しく絡んできた。


静かな夕暮れ。

まるで世界に、ふたりしかいないみたいな時間。


「……5秒、終わったけど?」

「うん。でも、もうちょっとだけ。だめ?」


「……バカ」


だけど、手は離せなかった。

もう、ずっとこうしていたいって思ってしまったから。

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