第25話 珍妙な連中

「それじゃケイタさん、行ってきますね」

そんな簡単な言葉だけ残して、リッカは"真明の間"とかいう、十分に怪しげな最終修行の部屋へと消えて行った。


俺は少しでも側に居てやろうという老婆心からノコノコと着いていこうとして、ユイリから烈火の如き勢いで叱られた。


こんなに叱られたのは、ガキの頃にふざけて川に入って溺れ死にかけた時以来かもしれない。


そういえば、男子禁制なんだっけ? 



「ケイタ様、リッカのためにありがとうございます。リッカはきっと大丈夫ですよ。私たちはあの子を信じて待っていましょう」



ウィラーは慰めるようにそう言ってくれた。


......ああ、この女性ひとこそが本当の女神さまなのかも知れない。そう思うと同時になぜか少しだけ、現実世界の母ちゃんのことを思い出していた。



リッカが真明の間に籠ってから2日が経過した。


......長い。一体秘密の部屋で何が行われているのかは一向に分からないが、結構掛かるもんなんだな......。



俺のためにあてがわれた簡素な部屋で、俺はここ最近まんじりとしなくもない日を過ごしていた。



そしてその日の夜、事は起こった。



ドンドンドン!


突然のノックの音に、短パン一丁でごろ寝していた俺は危うくベッドから転げ落ちそうになった。


慌ててドアを開くと、そこには血相を変えたユイリが立っていた。


「ケイタさん起きてください! 魔物の襲撃ですっ!」



いや、起きたからこうして出てきたんだが......。


目に見えて狼狽している俺に、ユイリはすごい早口で捲し立てた。



「今、私たちが食い止めています! ケイタ様、勇者様ご一行のそのお力で是非ご援護を!」



あー、そうか。この女性ひと、俺を過大評価しちゃってるんだな。悪いけど俺、バリバリの戦力外なのよ。『援護』つったって、俺にできること何かあるかぁ?


とはいえ、一宿一飯の恩義もあって嫌ですとも言い出せぬ。



「......お、おう......」


そう答えたつもりだったが、声がうわずりすぎたせいで珍獣の鳴き声みたいになってしまった。


ユイリは一瞬「ん? 今、なんて?」みたいな顔をしたが、ニュアンス的に否定ではないと悟ったらしく、「こちらへ!」と俺を先導して走り出した。



広間まで来ると、修道女たちと睨み合う3体の魔物が見えた。



見たところ3体の魔物は、それぞれ人間の体に牛の頭を乗っけたようなヤツと馬の頭を乗っけたようなヤツ、そしてヒツジの頭を乗っけたようなヤツの3体だ。



そして前者2体はムキムキマッチョな肉体をもっているのに対して、ヒツジだけはこの間のヤギみたいな柔らかい曲線とふくよかな胸が見てとれる。



さらに、驚いたことにこの3匹はおもむろに自己紹介をし始めた。



「俺の名前はゴズー!」

と、牛頭のヤツ。



「我が名はメズー!」

と馬頭。



「アタイはメリーだよ!」

と、これはヒツジ。



「3人揃って、ゴズメズブラザーズ......withM!!!」



そして各々「シャキーン!」と言いながら奇妙なポーズまで取るものだから、もはや俺の頭はパニック寸前だ。


一口に魔物って言っても、いろんなヤツがいるもんなんだなぁ。



俺や修道女たちは無言のままポカン顔で3匹を眺めていると、ポーズを解除した"ゴズー"なる牛頭野郎が、少し照れた様子で咳払いしながら言った。



「我らは魔王ゼビュラ様の障害となりそうな者共を始末する、魔の遊撃隊である。大人しく女教皇ハイプリエステスウィラーを差し出せ。そうすればお前たちの命は助けてやろう」



そんな不遜な申し出に、俺の隣にいるユイリが大声で答えた。


「ウィラー様は今、所用のため不在ですっ!」



え!? そうなの!?


俺と『ゴズメズブラザーズwithM』の3体は、同じような表情でユイリを見た。

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異世界転生したら不死になりました ~死なないだけが取り柄じゃない! 俺たちが魔王を倒すまでの血と汗と涙の物語~ 夢野 奏太 @kanata_yumeno

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