第17話 好プレー珍プレー
「お、おい、女だ! 女もいた! 捕まえろ! そいつも捕まえろ!」
マリアーノは俺の首根っこを掴んだまま、部下たちに向かって叫んだ。
「アイアイサー!」
「イーッ!」
陽気な掛け声とともに、数人がリッカの元へと走りだした。
あ、あーあ、あー......ん? これ、どうなるんだ?
俺は囚われの仔猫の如く、アガアガと足掻きながら事の成り行きを見守った。
「え? ちょっと誰ですか!?」
暗闇の奥からそんなリッカの声が聞こえてくる。
「ケイタさん!? ケイタさん!!」
「リッカ! 大丈夫か!? .....むぐっ!?」
めちゃくちゃ俺の事を心配しているリッカの声に答えようとしたとたん、俺はマリアーノに猿轡をかまされた。
やがて、恐らくリッカは手に持っていた洗い物を落としたのだろう。ガラガラという音とともに、男たちの声がした。
「親分! つかまえやした!」
「よし、連れてこい!」
俺の耳元でマリアーノがでかい声を張り上げた瞬間、リッカがいると思われる辺りで「バチッ!」という大きな音とともに、男の悲鳴が響いた!
「あんギャー!」
「どうした!?」
再びマリアーノが叫ぶ。こいつ、うるさいっての。
さらにその後、何やらその辺りで捕り物が始まったらしく、ドタバタとした足音とともに、リッカの「えい、えい」という声や、男たちの「てめえ、おとなしくしやがれ」とか「このアマ、何者だ!?」とか「ギャー!」とか「わー」とかいう声が聞こえてくる。
暫くのち、憐れ男たちは算を乱して逃げ出したようだ。
「親分、アレは無理ですぜ!」
「強すぎる! ただの小娘じゃねえ!」
十数人ほどが、マリアーノの元に逃げ帰ってきた。
さらにその後を、リッカがおしとやかに叫びながら追いかけてくる。
「待ちなさい! ケイタさんを返して!」
「てめえら、不甲斐ねえぞ! チイッ! ちとキズモノにしちまうが仕方がねえ!」
マリアーノはそう怒鳴ると、モゴモゴと口許で何かを呟き始めた。
お? コイツ魔法使えるのか? けど、あまり意味ないんじゃないかなぁ。
呪文を詠唱し終えたマリアーノは、すかさず魔法を発動させた。
「マジックアロー!」
その言葉とともに、一本のまばゆい程の光の矢がリッカの元へと闇を切り裂きながら飛んで行った。だが、無情にもその矢はリッカを包む光の壁に弾かれて即座に消失した。
「な、なんだと......? 俺のマジックアローがノーダメージだと......」
マリアーノは勝手にショックを受けている。あーあ、だから言わんこっちゃない。
その間も、リッカはスピードを落とすことなくグングン近づいてくる。
「ええい、やむを得ねえ! てめえら、逃げろ! ゲイジ、ゲイジ! てめえは足止めだ! あのアマガキを止めろ!」
そう言ってマリアーノは身を翻すと、代わって上半身裸の大男がこん棒片手に立ちはだかった。
「任せとけ、アニキ~」
恐らくコイツがゲイジなる人物なのだろう。多分ダメそうだろうな、コイツも。
ゲイジはこん棒を大きく振りかぶると、目前まで迫ったリッカの小さな頭に容赦なく振り下ろした。
「邪魔ですっ!」
だが、ゲイジはいとも容易く見えざる魔法の手によってこん棒ごと払い除けられていった。全く気の毒なヤツだ。
うおお、それにしても頼もしい。あんなどう見たって華奢で儚げな女の子が、野蛮な男どもを手玉にとっている。
「モガガッガ!」
助かった―――
もうリッカは目の前だ。
そう思った瞬間、突然リッカが俺の視界から消えた。
「あっ!」
よく見ると、リッカは何に躓いたのか、派手に横転していた。全力で走っていた分、その転倒の仕方も並みではない。
「......あ、逃げろ、今のうちに逃げろっ!」
俺同様、一瞬何が起きたのか理解が追い付かなかったマリアーノは、戸惑いながらも残った部下たちに指示を飛ばした。
「馬車! 馬車!」
すぐに俺は用意されていた馬車の荷台に乗せられ、ガラガラと何処かへと連れ去られて行った。
......嘘だろ。俺、誘拐されたんですけど......。
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