第16話 招かれざる客

途中、街の宿屋に泊まったり野宿したりで7日が過ぎた。



「な、なあ。あとどれくらいでミゼルに着くんだ?」



何故俺はこんな初歩的なことをあらかじめ聞いておかなかったんだろう。てっきり2、3日もあればササッと着くもんだと思い込んでたよ。



「えーと、多分あと7日もあれば着くと思いますよ!」



え!? そんなにかかるのか!? なんか一気に疲労が押し寄せてきた。



それにこの日もまた、適当な街を見つける前に日が暮れ始めている。



「ケイタさん、疲れてるみたいだから今日はこの辺で野宿しましょうか」



そう言ってリッカは、小川の脇の程よく短い草の生えた平地に背中のリュックを下ろし、テキパキと夜営の準備を始めた。



「お前は元気一杯だなー」



俺は呆れたように言った。



「はい。だってすごく楽しいです、私」



ま、楽しいに越したことはないか。俺もまた緩慢な動きながらリッカを手伝う。今日の晩飯は前の街で購入した食材を使ったスープとパン、それに干し肉が少々だ。



簡単な調理を終えると、俺はパンを齧ってスープを喉に流し込み、仕上げにニッチャネッチャと干し肉をしゃぶった。



やがて満腹とはいかないが、ある程度腹が満たされた俺は、ゴロリと地べたに仰向けになった。



見上げる夜空はまるで星の洪水だ。ふと宇宙がこのまま落ちてくるような錯覚に陥る。



「......なあ、魔王てのはなんなんだ?」



ふと気になって、お行儀よく食事を続けるリッカに尋ねた。



「1000年くらい前に突然このエルカディアに現れて、たくさんの魔物を従えて地上を荒らし回って、人類を滅亡寸前まで追い詰めたそうですよ」



「へー、そりゃ大変だ。でも、なんで滅亡しなかったんだ?」



「フーディっていう大魔導師が、自らを犠牲にして封印したみたいですね」



「あー、フーディさんね」

そう言えば、ミリィがなんか言ってたな。



「知ってるんですか!?」



リッカはびっくりしてこちらを振り向いた。



「あ、ああ。ちょっと小耳に挟んでな」



「ふうん」



リッカは不思議そうに首を傾げた。



「ふあー」

食べたら急激に眠たくなってきた。



「私、そこの小川で食器とか洗ってきます。ケイタさん、先に寝てていいですよ」



リッカは手際よく食べ終えた食器や調理具を片付け始めた。



「んー。気を付けてな」

なんか俺、しょーもないヒモ男みたいだな。そんなことをチラリと思いつつ、意識はすぐに闇に溶けた。



―――



「おい......おい、起きろ」



どれくらい時間が経っただろうか。聞き覚えのない声で、俺の意識は急速且つ強引に現実世界に戻された。



目を開くと、そこには30才前後の黒いツーブロック頭の見たことのない男の顔が。



「ん、誰?」



俺はポーっとした頭で答える。



「お前、こんなところで野宿とは無用心だぜ。俺様はこの辺りを根城にしているドンジョロ盗賊団の頭、マリアーノ=ドンジョロだ」



知らんぞ、そんなやつ。そもそも盗賊団つー割には、赤と黒のピエロみたいな派手なツナギを着ていやがる。



露骨に訝しがる俺に、マリアーノは言った。



「お前、レイズベリーの然るべき家柄のおぼっちゃまと見た。悪いが俺たちのアジトへご同行いただくぜ。しこたま身の代金をふんだくってやる」



はあ!? 



「いや、全然違げーし! 俺はアレだ、身寄りのない憐れな少年さ!」



こいつ、何をもってそんな勘違いを? と、思ったが、マリアーノの次の一言で合点がいった。



「バカヤロー、そんなしょーもない嘘に騙されるヤツがいるか! お前のその格好、それにこの剣! やんごとないご身分でもなきゃ着られるもんか」



言いながらマリアーノは、傍らに投げ捨てていたバスタードソードを掴み上げた。あー、そっか。この服と剣、やっぱ高級品なんだ。マテウス氏の好意が完全に裏目に出ちゃったぞ。



俺は逃げ道はないかとさりげなく周囲を見回したが、辺りはすでにマリアーノの部下と思わしき連中20人くらいに囲まれている。俺一人のために随分な騒ぎだ。これ、実は団員総出なんじゃないのか?



さーて、どうしたもんか。



少ない知恵を搾ろうとしたその時、遠くからのんびりした声が聞こえてきた。



「ケイタさん、もう起きたの?」



あ! リッカが戻ってきた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る