第18話 ドナドナ

くうっ、情けねえッ......!



仮にも魔王を倒さんとする勇者のパーティーメンバーの一員たる俺(補欠)が、盗賊なんぞに拐われてしまうとはッ......!



......ん? 情けない......? 俺、いつからそんな責任感が芽生えてたんだ? なんかリッカやテオたちの死闘を見てるうちに、いつの間にか感化されちゃってたみたい。



ガラガラと走る馬車の上で、俺はボーっとそんな事を考えていた。



馬車は二台。それと盗賊団員の乗った馬数頭。道なき道をひた走っているようで、荷台の揺れが尋常ではない。右に左に大きく揺さぶられたかと思うと、突き上げられるように飛び跳ねたりもする。



「くそっ! なんなんだあのくそメスガキは! 人間の強さじゃねえ! おい、もっと飛ばせ!」



ブツクサと文句を言いながら、急に馭者に八つ当たり気味に命令を出す、ドンジョロ盗賊団団長のマリアーノ=ドンジョロ。



思えばコイツも憐れなやつだ。喧嘩を売った相手が悪すぎた。リッカがいくらヒーラーだっていったって、並みの人間ごときが敵う相手じゃないってことか。



「こりゃあこの野郎の身内から相当踏んだくらねーと割に合わねーぞ」



そう言ってマリアーノは俺を睨み付けた。だから俺はレイズベリーの貴族とかじゃねえっつーの!



やがて森を抜け、岩だらけの荒れ地へと出ると、突如荷台を引く馬が棹立ちになって大きくいなないた。



「ムガッ!」

なんだ、何事だ!?



そう思う間もなく、俺は荷台から外へ放り出された。



俺はすぐさま起き上がり、猿轡を取って投げ捨てた。なんかだんだん"吹き飛ばされ慣れ"してきたみたい。だが同時に、マリアーノの部下たちの叫び声が聞こえてきた。



「何かいるぞ! 気をつけろ!」



「ちきしょう、魔物か!?」



その瞬間、猛烈な熱波が周囲に渦巻いた。



もーぅ、なんなのさっきから!? 熱風に巻かれるなかで薄目を開けて見ると、そこに現れたのは炎に包まれた牛と人の合の子みたいな巨人だった。



「うわあーっ、イフリートだ!」



「なんでこんな所に!?」



えー!? あれも魔物なの!?



すると巨人は、誰に頼まれることなくご丁寧に自己紹介を始めた。



『我は火の精霊イフリート。汝、我との契約を望むか? 我が力を得んとすれば我と戦え。汝が勝てば我が力は汝のものぞ......』



魔物......ではないのか? 我、汝、我、汝......。いずれにせよ、まーたおかしなのが出て来ちゃったゾ。



そう思いながらヨロヨロと立ち上がると、マリアーノが生き残りの部下を集めて懸命に指示を飛ばしている。



「てめえら、集まれ! 戦列を組むんだ。コイツからは逃げられねえ。ここで倒すしかねえっ!」



わらわらとマリアーノの元に集まった部下は13名。どの男もさほど強そうに見えないのは、俺の目が肥えすぎてしまっているからか。



不意にマリアーノは猫の手も借りたくなったのか、俺から取り上げていた剣を投げ返しながら言った。



「お前も手伝え!」



うーん......これ、どういう流れよ。

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