第15話 街道ほのぼの旅

「じゃあ、ちょうどふた月後の6月21日にベメルグの帝都、メルグで待ち合わせしましょう。もしどちらかに何かがあって連絡が取れないようなら、その時はここに戻って来るってことで」



レブランの提案で、そういうことに決まったらしい。

あ、やっぱり今って4月だったのか。



俺はマテウス氏から貰った『バスタードソード』を背中に担いで、ベルトのバックルを締めた。当然、剣なんて握った事もないが、まあ何もないよりはマシだろう。



俺とリッカはベメルグ組に先発してレイズベリーを出ることになった。見送りの際、ミリィだけは相変わらず俺と目を合わせようとしなかったが、出立ギリギリになっておもむろに俺の所へ近づいてきてこう言った。



「これ、持って行きなさい。アンタは私とはあまり離れられないようになってるから」



「これは......?」



手渡された物は一房の髪の束だった。深緑色をしているから、ミリィのものなのだろう。そー言われるとミリィの少し癖のある長い髪が、若干短くなっているようないないような......。うーん、イマイチ自信なし。



「......私のカラダの一部があれば、アンタは何処にでも行けるから」



そう言い残すと、ミリィはサッサと背中を向けて俺の元を離れて行った。



やっぱりだいぶ拗らせてんなぁー。まあ、それもこれも俺が弱すぎるのが問題なのだが。取り敢えずこのふた月、どうにかこうにかご期待に添えるように頑張ってみるか。......とは言え、今さら剣の練習したところでなぁ......。



そんな俺の若干のモヤモヤとは裏腹に、リッカは至極ご機嫌がよろしい。城下の街を抜け、人の往来が少なくなった頃、満開の笑顔で俺に話しかけてきた。



「ねえ、ケイタさん。私今まで男の人とあまりお話したことないんです。だからすごく変な感じ。しばらくの間よろしくお願いしますね」



ふーん、リッカってホントはこんなキャラだったんだ。最初のイメージとはだいぶ違うなぁ。



空は晴れ、遠くの山々までよく見渡せる。柔らかい日差しの降り注ぐなか、俺リッカは二人並んで街道をポクポクと歩きながら、チラリと横目でリッカを見た。



黒くて大きな瞳にツンと尖った小さな鼻。丸い顔によく似合う黒髪のおかっぱ頭。白いフワフワした純白のローブ姿は、まるでリッカの性格をそのまま表してるみたいだ。手袋をはめた右手には、魔法少女の変身ステッキみたいなロッドを持っている。



「なあ、ミゼルってのはどんなとこなんだ?」



リッカの濡れたような長い睫に、何故か少し戸惑いながら俺は尋ねた。



「ミゼルはカディア教の総本山なんです。私の育った場所なの。森と泉に囲まれた、とっても綺麗な場所なんでよ」



「へー。てことはリッカはそこで僧侶の修行をしたんだな」



「うん。でもまだまだでした。少し悔しいな。みんなみたいに活躍できなくて」



リッカは少し寂しげに微笑んだ。



「テオや他のみんなはそんなに強いのか?」



俺は尚も畳み掛けるように尋ねる。折角の機会だ。聞けることはジャンジャン聞いとこ。



「テオは別格ですよ。なんてったって勇者様だもん。それにミリィは一人で四獣将のひとりを追い詰めたことがあるそうです。それでついた渾名が"闇の女王"。でもおかげであんな可愛い姿にされちゃった」



そう言って、リッカはクスクスと笑った。



「え!? それが原因で!?」



「はい。私は見たことないけど、元の姿はすごく綺麗なお姉さんなんだって。レブランが言ってました」



ひえー、衝撃の事実だ! それにあのレブランが「綺麗」って言うってことは、どれだけ綺麗なんだ!? ......あー、でもミリィは性格に難がありすぎるか。



「......でも、私の理想はレブラン。わたしもいつか、あんな素敵なレディになりたいな」



へー、そうなんだー。



丸い綿菓子みたいな雲が、のんびりと青空を流れて行く。

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