第13話 飼い犬と飼い主

10日目の夜、飽食のあとにフカフカのベッドで寝転んでいると、不意に俺の部屋のドアを叩く音がした。



はて、何だろう?



膨れた腹を擦りがらドアを開けると、深緑色の髪の頭頂部が見えた。



ミリィだ。



俺の胸元くらいの位置に頭があるから、身長は恐らく120センチメートルくらいだろう。



顔だって背丈に相応しい幼い顔をしている。レブランが言うにはこれで23才ってことだそうだが、どう見たって小学校低学年女児のそれだ。いつものまるで葬式みたいな黒いワンピース(?)を着ている。



いやー、それにしても怒ってるな、これは。



「ケイタ、ちょっと顔貸して貰える?」



うん、やっぱり怒ってる。もしかして体育館裏とかあるのか?



ミリィについて裏木戸を抜け、屋外の寂しげな溜まりへ出た。



空は無数の星が輝き、足元では虫が鳴いている。



「アンタ、本当にフーディじゃないの?」

ミリィは唐突に切り出した。



「......フーディ?」



なんだそれ?



「千年前に魔王を封印した、大魔法使いフーディよ」



「いやー、違うんじゃないか?」



「とぼけないで! 私が召還をミスるわけないんだから、本当のこと言いなさいよ!」



怖っわ! なんだこいつ。



「なんだよそれ。知らねーよ、そんなやつ!」



あ、思わず怒鳴り返してもうた。



「......そう」



あれ、今度は泣きそうじゃないか? なんだよもう、情緒が不安定すぎるだろ。



「あー、まあその......なんだ。そのなんとか言う魔法使いじゃなくて悪かったな」



「アンタは悪くないってば!」



えぇ......? やりづれぇな、もう。



「な、何が言いたいんだよ」



疲れるやら困惑するやらで俺は尋ねた。



「もっと強くなりなさい......。アンタ弱すぎるのよ!」



ぐっ! 痛いとこ衝いてきやがる。けど、そんなこと言われたってしょうがないだろう。俺はついこの間まで何の変哲もない只の高校生だぞ。



「いや、戦力になれてないのは分かってる。ただ、一応俺なりにカラダ張ってお前やリッカを守ろうとはしてるんだぜ」



モニョモニョと口を尖らせての懸命な言い訳。ところがミリィは意外な事を言い始めた。



「だから! その体を張らなくても守れるようになりなさいって言ってるの! 何度も何度もアンタが飛び散るのを見たくないの。いくら死なないって言ったって、痛みはあるんでしょ」



......ああ......俺って第三者の目から見ると"飛び散って"たんだ。いや、そんなことより俺の事を気づかってくれてるのか、これは?



「......アンタはたとえ自分がどうなろうと、『私を守ること』と『私の命令を守ること』から逃げられないんだから」



ミリィから、いつもの勝ち気な表情が消えた。



「ゴメン......もう、気にしないで」



そう言い残して、ミリィは夜の闇に消えた。



うーん......それって結局どういうこと?

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