第11話 今宵、往年の古舘伊知郎のように

かまいたちによる魔法攻撃が効かないと悟ったイディア-は、両手に二本の金棒を持ち、「ビョン!」と跳び跳ねるように直接攻撃を仕掛けてきた。



第一目標はもちろん隙だらけのレブランだ。



危ない!



その異常なスピードに、レブランの頭が打ち砕かれるかと思われたが、その寸前でテオの剣が金棒を弾き返した。



「させない!」



ビュッ! と返す刀でイディア-の肩口を切りつけるテオ。



だが、当たらない。何しろイディア-の素早さときたら、目で追うのが精一杯なほどだ。



事実、ミリィが何度かイバラの蔦で絡め取ろうと試みているようだが、悉く空振りに終わっている。



さらに悪いことに、ガラス窓をぶち割って4匹の虫型モンスターが追加で登場!



俺の側から見て右からカマキリ型、蝶型、ひとつ飛ばしてクワ型だ!



ぐぅ。当初の楽勝ムードから一転、なかなかエグみのある展開になりそう。



案の定、ひとつ飛ばされたことに腹を立てたか、カブトムシ型の魔物が一直線に俺の元へ駆け寄り、その鋭利な角でドテッ腹を貫くと、強力なパワーでしゃくり上げるように俺を放り投げた。



俺は天井をぶち抜いて月まで飛んでいくんじゃないかと思う程の勢いで舞い上がり、やがて万有引力の法則に則って激しく地面にキスをした。(前歯全損)



あーあ。この世界に来て僅か二日でもうこれ二回目。イヤになるね。



ところがここで、こちらサイドにも援軍登場。この城の生き残りの兵士たちが多数躍り込み、激しい乱戦にもつれ込むかと思いきや、この兵士たちがあんまり強くない。



次々に魔物にやられてどんどん死傷者が生産されるせいで、リッカが忙殺されてなんだか逆効果なんじゃなかろうか。レブランの父さんが安全そうな場所に運ばれて行ったのがせめてもの救いか。



そんな戦況を俺は床でのたうち回りながら観察していたが、やがて転機が訪れた。



名もなき兵士たちの後方で呪文の詠唱に集中していたミリィが、いよいよその詠唱を完了させ、魔法を発動させたのだ。



フェストデアトーテン死霊たちの狂宴!」



みたいな感じの叫び声とともに現れ出でたるは、魚のように宙空を泳ぎ回る7体のしゃれこうべ。



なーんか悪趣味な魔法! ......ああ、そう言えばアイツ死霊魔術士ネクロマンサーとか言ってたっけ。てことは何? あのしゃれこうべは俺の兄弟分?



ところがあの我が弟たちは兄たる俺より遥かに有能らしく、流れかまいたちに当たって何度目かの切断を繰り返す俺とは裏腹に、後から登場した虫たちを追いかけ回している。



さらに視線を移せば、リッカの援護を受けたテオとイディア-がホール全体を高速移動しながらの激しい一騎討ち。



その間隙を衝いて、戦線復帰したレブランが父の仇と言わんばかりに、毒の鱗粉を振り撒いていた蝶々を背後から切り捨てた。



リッカはもうヤケクソみたいに、ディフェンス強化の支援魔法と全体回復魔法を繰り返している。



そんなカオスな状況の中、度々致命傷を負いつつも、不死者アンデッドの特性を活かして都度復活する無力な俺。今やその立場は完全に実況兼解説者だ。



おーっと! ここで俺ほどではないにしても、それに次ぐ役立たずと思われていたレイズベリーの兵士の一団が、多数の被害を受けつつもカマキリ型を仕留める大殊勲。だが、その損害は甚大だあっ!



......俺も何か少しは役に立ちたいぞ。



そう思って立ち上がるや否や、背中に強い衝撃を感じて俺は激しく吹き飛ばされて再び地面に昏倒した。



どうやらテオと激しくやりあっていたイディア-が、誤って俺に追突したらしい。



「てやっ!」



紫電一閃。テオが剣を振り抜くと、イディア-の右腕が宙に舞った。



「ギャアー!」



気色悪い悲鳴を上げるイディア-。



「バカな! 我が策は完璧だった筈! 何故に私が追い詰められる!?」



「杜撰だったからだろ」



うっかりボソッと呟いてしまった俺にイディア-は逆上したのか金棒を投げつけてきたが、それは俺の頭に掠っただけで、若干量の脳と眼球を吹き飛ばす程度に終わった。それにしてもどうだい。ヤツは武器を全て失ったぞ。



イディア-は、一瞬「あ、しまった」というような表情を見せたが、すかさず横殴りに剣を薙いだテオによって首を刈り取られてしまった。



バカでよかった。



そして多勢に無勢となったカブトムシとクワガタも、やがてミリィの召還したしゃれこうべによって、美味しくいただかれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る