第10話 謎アピールは突然に

「イディア-!」



テオが叫ぶ。



え、何それ。あの白ヤギさんの名前かな?



そう思っていると、当の白ヤギは誰の許可を得るでもなく勝手に喋り始めた。



「勇者テオとその一党。魔王ゼビュラ様に歯向かう愚か者どもよ。まんまと我が策に嵌まりおったな。ここで私がキサマらを殲滅してくれようぞ」



言い終わると、よほど嬉しかったのかイディアーなる白ヤギは嫌~な感じで高笑いした。



「クッ!」

みんなが歯噛みする中、俺はとんでもない事に気がついてしまった。



(あいつ......メスだ!)

だって胸に二つの膨らみあるもん! しかも結構デカイ! それによく見りゃ服もなんかネグリジェみたい!


......まあ、そんなことはどうでもいいがな。



ええい、こうなりゃ自棄だ!



(くらえっ、先制攻撃!)



俺は持っていたテーブルの脚をイディアーめがけて投げつけた。



「ちょっ......ケイタ!?」

ミリィがこちらを振り返って声を上げた。予想外の人物の予想外の攻撃に、敵よりもむしろ味方が驚愕している。



だが脚はグルグルと回転しながら、思いの外いい感じにヤギの額へ向かって一直線に飛んでいった。



(もらった!)



そう確信した瞬間、どういうわけか脚はスパッと真っ二つに裂けて床に落ちた。



ありゃ?



直後にミリィが叫ぶ。



「魔法が来る!」



うおっ、確かによく見なくてもイディア-の周囲の空気が裂け、鋭利な刃物のようにいくつものかまいたちとなってホール中を飛び回った。そしてその一つは、明らかにリッカの元へと向かっている。



(チキショー!)



俺はリッカの前へ飛び込んだ。



思った通り、かまいたちは俺を上半身の俺と下半身の俺の2名に分けた。



ぐふ。



口から大量の血が溢れ出す。うう、痛い。断面にちゃんとモザイクかかってるんだろうな......。そんなわけないか。ハハハ......。



だがとりあえず、リッカは無事なようだ。口許でムグムグと何事か呟き、やがて「ディフォンスマジキュー魔法防御!」と大きく叫ぶと、仲間たちの体が一斉にピンク色の光に包まれた。



光は、イディア-の放つかまいたちをことごとく弾いている。



おおっ、すごい! すごいが、それもうちょっと早く......。



そう思っていると、俺Aとも言うべき上半身の裂け目と俺Bである下半身の裂け目から、細胞組織や内蔵がウジュルウジュルと自動的に伸びて結びつき、やがて一つへと合体して元通りになった。相変わらず我が事ながら気色悪い。



むっくりとまさに不死鳥のごとく立ち上がると、激しく飛び回るかまいたちの中、レブランが父親を助け起こしている。



「父上!」



俺もリッカとともに慌てて二人の元へ駆け寄った。



義父上ちちうえ、しっかり!」



そう励ます俺に、レブラン父はリッカの回復魔法による治療を受けつつも、激しい痛みのために額に大粒の汗を浮かべながら困惑したように言った。


「わ......私は君の義父ちちではないぞ......」



チイッ! 案外意識ははっきりしていたか(笑)

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