第6話 戦果

 しばらくすると部屋の光は元の薄暗さに戻る。犬の魔獣がいたところには巨大な金の首輪が落ちている。


「終わった、終わった」


 アレクは腰を伸ばしてストレッチする。スフィアはアルシャに駆け寄りすぐに回復魔法をかける。


「重いな」


 カイルは金の首輪を持ち上げようとするがびくともしない。シズクも試してみるが結果はわかっていたようですぐにあきらめる。ジールは魔法で浮かばそうとするが弾かれてしまいこれも失敗する。


「アレク~。僕たちじゃ持ち運べそうにないからお願いしていい~?」

「ああ、もちろんだ」


 アレクはそう言うと首輪のそばに駆けて行き片手で持ち上げて見せた。


「やはり貴様はバケモノだな」

「おいおいよしてくれよ」

「褒めてないわ」


 アレクはジールの言葉に少し照れた表情を見せる。ジールを含めみんなは引きつった笑いを見せる。



 6人は扉の前へと戻ってくる。


「じゃあ、はめてみるぞ」


 アレクは首輪を慎重に床の溝にはめ込む。ぴったりとはまった首輪は光だし、床の細い溝に金色の光が満ち始める。その光は扉の方へと向かい、ついには自体が光り輝き始める。「ゴゴゴゴゴゴ」という鈍い音を鳴り響かせながら扉が開く。

 扉が開き6人は安堵の声をあげる。アレクはすぐに扉の向こうへと進もうとする。


「ちょっと待って!」

「なんだよ、シズク」

「あのね、みんな疲れてるんだよ。次の階でもさっきみたいなのが出てきたらしんどいでしょ。だからちょっと休んでいこうよって話」


 アレクは少し考えた後、納得したようで地面に腰を下ろす。


「ちょうど腹減ったしな。飯にするか」

「アレクさんってすごいマイペースですね」


 スフィアはクスクスと笑いながら床に座る。

 各々、王様からもらった袋に手を突っ込み食べ物を取り出す。


「なんだこれ」


 カイルが手に持っていたのは干し肉であった。


「こんなしけた物よこしたのかよあの王様は」


 アレクは骨付きの肉を片手に頬張り始める。


「なんで、アレクのはそんないいもん入ってんだよ」

「あの、おそらくですけど取り出す人によって違うのではないのでしょうか」


 スフィアはそう言いながら右手に持った野菜スティックを見せる。


「アタシ、いいこと考えたわ」

「いいことって何ですか?」

「みんなで分け合えばいいのよ」

「それは名案ですね!」


 さすがに野菜スティックだけは嫌だったのか、スフィアは目を光らせながらアルシャの提案を受け入れる。みんなも受け入れて袋から色々な料理を取り出す。

 スフィアは待って待ってと言いながらマジックインベントリから風呂敷を取り出し、床に広げる。その上に料理というよりは調理された食材が置かれていく。


「道具さえあれば調理できるのにな、スフィア持ってないのか」

「一応ありますけど、カイルさんは料理できるんですか?」


 スフィアは意外だと言わんばかりの顔でカイルを見つめる。


「そのくらいできるわ」


 ごたごたが落ち着き一同は食事を始める。最初はみな、食べることに必死になっていたがしばらく経つとペースダウンし会話が始まる。


「さっきの戦闘の反省をするぞ」

「ジールって真面目なのね」


 指についてソースを舐めとりながらアルシャはジールに視線を移す。


「貴様は初っ端に死にかけていたではないか」

「あれは…」


 アルシャが言葉に詰まるとカイルがジールに問いかける。


「おっさんに聞きてえんだが、なんであの魔法を寝ているあいつに放つって発想はなかったんだ?」

「言っただろう、耐性がわからないと。それにあの魔法は閉鎖空間で使うと光が籠り視界が奪われる。もしあの魔法で倒せなかったらただただ視界を奪うことになるだろ」

「それは最後に放ったのも一緒だろ」

「あいつに光属性が効くことは我の初撃からわかったからな。それにシズクが爆破でアイツの邪魔な毛を払ってくれたからな。あれがなければ正直倒せていたかは危ういところだ」

「まあ今回のMVPはシズクなのは間違いないな」

「えーやめてよ。照れるじゃん」


 シズクは身体を丸めて顔を赤くする。尻尾が左右に激しく揺れていることから喜んではいるのだろう。


「シズクさんの札術は素晴らしかったです。初めて見ましたがなんでもできるんですか?」

「いやいや、攻撃力自体は大したことないよ。爆破で飛ばせたのも毛くらいだし。しかもそれはアレクとアルシャが犬の気を引いて弱らせてくれたからだよ」

「あら、うれしいこと言ってくれるわね」

「アルシャの血は相手の防御も弱くするの?」

「厳密には違うかな、アタシの血を取り込んでも眠くなるだけよ。ただそれによって魔力制御が乱れて結果的に防御力が下がったんだと思うわ。それよりもアタシはカイルに聞きたいことがあるんだけど」


 静かに会話を聞いていたカイルはまさか自分にボールが飛んでくるとは思わず、少しだけむせ返る。


「なんだ」

「アタシさ、小さい頃からステルス魔法を使っていてさ、大人になってから見抜かれたことないのに何でわかったの?」

「オレは目で見たものと音で聞いたもので状況を判断しているからだ」

「アタシの魔法は音もなくなるんだけど」

「反響の違いだよ。ステルス魔法といってもその場にいることは変わらないだろ。音の反響で味方の位置も敵の位置も、地形だってわかる。オレに死角はないんだよ」

「なるほどね。アナタに夜這いするのは難しそうね」


 カイルは口に含んだ水を吹き出す。スフィアは少し顔を赤くしている。


「よ、夜這いなんていけませんよ。アルシャさん」

「スフィアお嬢様はうぶなのね」


 ふふっと不敵な笑みを浮かべる。


「ふう、食った食った」


 アレクは会話も聞かず、ずっと食べることに夢中であった。少し膨れた腹をさすりながら横になる。


「一番話を聞きたいのはアレクなんだが」

「俺か?なんだよ。別に見たまんまだよ」

「まず初めのアイツの攻撃にどうやって反応したんだよ。完全に不意を突かれてただろ」

「まあ、勘だな。だってラストダンジョンだぜ。そんなとこにいる怪物が寝首を掻かれるような無様なやられ方しないだろ。寝たふりだよ、寝たふり」

「でもじゃあ何であの犬は僕たちを一回は通してくれたのさ」

「シズクって意外と馬鹿なのか?」

「はあ!?アレクに言われるのだけは納得いかない!」


 さっきまでご機嫌そうだったシズクは尻尾をピンと立ててアレクに対して鬼のような形相を向ける。


「ちょっと考えればわかるだろ。アイツは自分の首輪がなきゃこの先には進めないことを知ってたんだ。だからあえて寝たふりをして見せて油断して挑んできたやつをぶっ飛ばそうって算段だったんだろ」

「んーー、ナットク」


 シズクはほっぺを膨らませてそっぽを向く。


「我はもう一つ聞きたいことがある」

「なんだ」

「シズクを助けるときに貴様は壁を蹴ったと言っていたな」

「ああ」

「このダンジョンの壁は魔術的に強化されておりかなり強固にできている。それにあんなクレーターを作るとはどんな脚力してるんだ」

「まあ俺はこの身ひとつでここまで来たんだそれくらいできて当然だろ」

「そういうことを言っているのではない。人間の肉体では不可能な芸当だと言っているんだ。そのタネは何だと聞いている」

「魔力制御が得意だといっただろ。魔力で身体強化をできるのはみんな知ってると思うがその密度を上げることで超人的な力を出してんだ」

「魔力強化はどれだけ優れた者でもむらが出てくるはずだ。なのに貴様はそのむらが一切ないのはどういうことだ」


 ジールが言う「むら」というのは魔力で身体能力を強化すると少なからず体外に魔力が放出され消費されるということだ。魔力制御とは目的に対してどれだけ魔力を効率的に使えるかの能力である。例えば炎を出す魔法を使ったときに100の魔力がすべて炎に変換されるのではなく、80は炎、20は空気中へ分散する。この20がジールの言う「むら」である。


「どういうことと言われても。魔力を外に逃がさなきゃいいだけだろ」

「そんなことは不可能だ。貴様は魔力切れを起こさないと言っているようなものだぞ」

「魔力切れは起こすぞ。攻撃のために魔力を使ったりはするからな。ただ魔力強化においては魔力を消費しないってだけだ」


 それでもこの世界では十分おかしなことであり、みんな目を点にして驚いている。



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