第4話 再び自己紹介

「ねえ、どうする?」


 シズクはアレクの耳元で問う。


「倒すしかないだろ」

「いや、待て。奴の後ろに道が続いてる。ここで消耗するよりも避けた方が賢い選択だろう」


 ジールが俺の肩に手を置き制止してくる。


「翼人族は飛べないとこでは弱気なのか」

「貴様、我は合理的判断をしているだけだ。脳筋の貴様とは違うんだよ」

「言っておくが俺がこのダンジョンに潜る理由は戦うためとダンジョン攻略を楽しむためだ」

「イカレてんのか」

「ねえ、アレク。気に食わないけど僕も今回はジールの意見に賛成かな。この魔獣はまともに戦ったら犠牲者が出るよ。それにダンジョン攻略も目的に含まれてるなら最奥へ進むことも重要だと思うんだよ」

「負ける気はしないんだがな。まあいい今回はそっちの案に乗るよ」


 アレクは少し残念そうな表情を浮かべる。他の5人は少しほっとしたように胸をなでおろす。6人は部屋の隅をゆっくりと進み魔獣の裏へと抜ける。通路を進んでいくと扉が現れる。


「だめね、開かないわ」


 アルシャは扉の周りを入念に調べてから開かないという判断を下す。


「この溝が怪しいと思うのだけど、みんなはどう思うかしら」


 わざわざその格好で調べなけばいけないのかと思うくらい際どいポーズを取りながらアルシャはみんなに問いかける。カイルはアルシャから目を逸らしながら、答える。


「ほかのダンジョンでの扉の開け方は鍵を使う、何かしらの仕掛けを解く、特定のアイテムをはめ込むといったところか」

「でも、ここまで一直線だったのよ」

「あのー、私はダンジョンについてはよく分からないのですがいいですか?」


 スフィアが申し訳なさそうにカイルとアルシャの会話に割って入る。


「なに、お嬢さん」

「その床の溝なんですけど、さっきの魔獣の首輪に形が似てませんか?」


 みんなは顔を見合わせるが誰も覚えていないのか首をかしげる。


「戻って確かめてみればいいんじゃないか?」


 アレクは少しわくわくした口調で言う。


「待て、確証がない限り危険な行動は避けるべきだ」

「でもよ、俺たちはここに来るまであの犬以外何も見てないし、もし仮にカイルが言ってたみたいに鍵の場合もアイツが守ってる可能性が高いだろ」

「早計だな。この部屋を完全に調べ切ってから判断をした方がいいだろう」

「そうかよ、じゃあ俺は瞑想でもしてるから終わったら肩でも叩いてくれ」


 アレクは部屋の隅に行き、胡坐をかき目を瞑る。ジールはため息を吐き部屋を調べ始める。カイルとシズクは一緒に通路を少し戻り壁を調べに行く。スフィアは地面に腰を下ろし、自分の身長と同じくらいの杖を置き休憩する。


「すみません、私、慣れてなくて少し疲れちゃいました」

「いいわよ。でも話には付き合ってくれないかしら?」

「なんですか?」

「もし戦闘するってなったらあなたはどうするの?」

「一緒に戦います」

「戦えるようには見えないのだけど」

「そうですね、攻撃は初級魔法を少し使えるくらいです。でも遠隔で回復魔法をかけることができるので前衛の方がケガをしたら治すことはできます」

「へえ、遠距離回復も可能なのね。末恐ろしいお嬢さんね。でも言っておくけどこのパーティは個人が集まっただけだから前衛とか後衛とかないと思うわ」

「え、そうなんですか。それじゃあ誰も私を守ってはくれないのでしょうか」

「あら、それなら3人の男に色目でも使ってみるといいわよ。自衛の手段くらいはもっとくものよ」


 アルシャはスフィアの太ももに手を這わせて上半身にある膨らみへと沿わせていく。スフィアは手で軽く払いながら話を続ける。


「一応、弓を使えます」

「弓なんてどこにあるの?」


 アルシャが尋ねるとスフィアは盾でも張るように腰に携えていた袋から弓を取り出す。


「それって」

「はい、マジックインベントリと呼ばれる魔法具です。皆さんの装備の替えも入ってるのでもし必要になったら言ってください」

「そういうのは早めに言うべきだとアタシは思うわ」

「ごめんなさい、忘れてました」

「おい、貴様。真面目にやれ」

「え~、だってアタシの知識で調べられることはもうやったし、正直飽きてきたのよね」


 カイルとシズクが戻ってきて何もなかったと自分たちの成果を伝える。


「やっぱりあの魔獣を倒さなきゃいけないみたいだね」

 

 シズクは少し引きつった笑いを浮かべながら言う。


「戦闘は避けられないだろうな。そこでお互いにできることを話し合わないか」

「意外だな~。ジールはもっと一人で全部やるって感じの人だと思ってた」

「先を見据えてるだけだ。我は馬鹿ではないのでな」

「じゃあ、アレクのこと起こそうか」


 みんながアレクの方を見る。誰もアレクを起こそうとはせずただ黙って見つめている。


「ねえ、誰が起こすの?僕はいやだよ?」

「アタシだってあんなおっかない雰囲気出してる人に近づきたくないわ」

「我は話し合いの準備を進めておく、貴様らの誰かがやれ」

「おっさんさ、意外と肝っ玉ちいせえのな。オレは嫌だぜ」


 4人がスフィアの方を見る。


「私ですか?別に構いませんよ。てかどうしてそんなに怖がっているのですか?」

「スフィアは戦闘経験がないからわからないのでしょうけどアレクの放つ威圧感というか殺気というか、第六感が刺激されて危険信号出してるのよね」

「そうなんですか」


 スフィアは何も感じないような様子でアレクに歩み寄る。最初は耳元で声をかけるがいっこうに気づく様子がないため言われた通り肩にたたいて呼びかける。


「アレクさん、起きてください」


 すると部屋の空気が軽くなりアレクが目を開ける。


「おう、どうした」

「今から、戦闘をするから話し合いをするそうなので起こしました」

「寝てたわけじゃないぞ。ついにみんなやる気になったか」


 アレクはまるで幼い子供のように笑いながら肩を鳴らす。


「話し合いって何するんだ」

「我々が各々できることを共有し、パーティとして戦う。簡単に言うとそんなところだ」

「オーケー、俺は近接主体だ。魔法は使えないが魔力制御は得意だ。以上!」


 アレクはみんなに近寄りながら自分の説明を短く終わらせる。そして一人ずつ順番に話していくこととなった。

 ジールは光と雷の魔法を得意とする。中距離で戦うことが得意であり、集団殲滅力が高い。腰に携えた剣で近接も戦えないことはないが実力は並みの剣士に毛が生えた程度である。

 シズクは札術というお札に書いた術式からいろいろな攻撃を繰り出す。結界を張ったり、幻惑効果のある術を発動でして戦う。また、対象へ様々なデバフ効果を付与することができる。真正面からやるのは苦手。一応、狂獣化ビーストモードという妖狐族の形態変化があるがかなり消耗するためいざというときしか使用しない。

 アルシャは二つのダガーを使って戦う。近接主体の立ち回りであり、ステルス魔法が得意なためヒット&アウェイで戦う。人種相手ならサキュバス特有のフェロモンを出し、誘惑することも可能。魔獣への効きはいまいちらしい。

 カイルは背中に背負っているハープを使用して音魔法を使い戦う。他人へバフを掛けたり、斬撃や打撃を飛ばして戦う。


「なんか意外とバランスいいわね」

「あのー私は?」

「あら、スフィアはいいのよ。戦えないでしょ」


 アルシャが唇に人差し指を当てながら言う。ジールも頷きながらパーティの立ち回りを共有する。

 メインアタッカー兼タンク役はアレクとし、アルシャとシズクで相手の動きを制限する。ジールとカイルが後方支援かつ、スフィアを守る。スフィアは後方から前衛を回復する役である。


「なんだか楽しいな。今までずっと独りだったから新鮮だぜ。よし!決まったことだし、ぶったおしにいこうぜ!」


 アレクは拳と掌を合わせてゴングを鳴らす。

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