第3話 初めの1歩
「この先を左に行った所にある大扉です」
俺は背中に担いだ女性から指示を受け、全員を誘導する。扉の前に着くと女性は下ろすように指示をしてきた。ゆっくりと床に下ろしたが、女性は一瞬よろける。服装を整えて咳払いをすると取っ手を握り扉を開ける。
「陛下、お連れいたしました」
扉の先には玉座に偉そうに座るおっさんがいた。これが王様というやつか、ジャラジャラの装飾に高そうな衣装、そして顔が偉そうである。俺は他の4人の様子を伺う。シズクは建物に興味があるのか辺りを見回している。ジールは相変わらず本の虫である。アルシャは左右に整列している兵士の品評会を一人で開催しているようだ。カイルは慣れた様子で静かに歩いている。
「貴様ら!王の御前だぞ!何を考えている!」
玉座の横にいた甲冑が広間に声を響かせる。5人は一斉に黙る。
「王の御前?それは誰にとってのだ?」
ジールは眼鏡に触れながら問う。
「ここは我が国ではない。それに我が国は王などという傲慢な存在はいない」
「この国の王様ってことはアタシの口の敵って認識でいいのかしら」
アルシャは唇を一周舌で舐めると、腰に携えていた短剣に手を添える。流石にまずいと思ったのかシズクが一歩前に出る。
「アルシャ、一旦落ち着こうよ。この人達は別に争うつもりはないんだから」
「そうかしら。この国では魔族の奴隷扱いは合法という差別国家なのに。まあいいわ、ここはシズクの顔を立てて大人しくしとくわ」
アルシャも周りの兵士たちも臨戦態勢を解く。
「それではこれより、選ばれし5人へ国王陛下から贈呈品の授与を執り行います」
そう宣言され始められた授与式では謎の袋を各自貰った。
「なんだこれ」
「僕知ってるよ。魔法の道具入れでしょ」
「半分正解です。それは魔法の食糧庫です」
なんでも袋の中には1年分の食糧が入っているらしく、袋の中から出さない限り腐ることはないらしい。ダンジョン内に食料がなかった場合を考慮しての贈り物だろう。
「ねえ、王様。僕さ、一つだけ聞きたいことあるんだけどいい?」
「よいだろう、許可する」
「ありがと。この国は選定祭で大きな経済効果を得てるって聞いたんだけどなんでこんな支援をするの?別にこんなのもらわなくても僕らはダンジョンに潜るし、ほっとけばいいんじゃない?」
「説明してやりたまえ、セルシャ」
俺たちを案内してくれた女性はセルシャというらしい。そしてセルシャ曰く、ダンジョンへ挑戦する際に国からの援助があればダンジョンへ挑もうと思う人が増え、結果的に集客につながっているそうだ。
だが、今回の贈呈品は別格らしく選定祭で得られる経済効果を考慮しても赤字らしい。理由としてはそろそろラストダンジョンをクリアしてもらわないと問題があるらしい。
「問題ってなんだよ」
「貴様は脳みそまで筋肉でできてるのか?」
「おい、ジーク、心優しい俺でもそれは傷つくぞ」
「ふっ。世界の現状を見れば明らかであろう。ダンジョンの資源は取りつくされ、その資源をめぐって各地で紛争やら戦やらが起きている。そしてこの国にはまだ手付かずのダンジョンが存在する。世界で唯一のな」
「なるほどな、ほかの国がラストダンジョン目当てで戦争吹っ掛けてくるかもしんねえって話か」
「思ったより伝わったみたいだな」
「その翼人族が言ったとおりのじゃ。そなたらがダンジョンを攻略すればその資源を使って貿易やらができるし、お互い理に適っておるのじゃ。そして今回はさらに支援をしてやる。連れてこい」
王様は扉の近くに立っていた兵士に指示をする。兵士は急いで扉から出ていくと数秒後すぐに女の子を連れて戻ってくる。
「では自己紹介を」
「はい!スフィア=スイルと言います。この国で回復術師として育てられました。今回は皆さんのお手伝いをするためにご同行いたします。よろしくお願いいたします!」
長い黒髪をなびかせながら元気にお辞儀をする。
「なあ、そもそもラストダンジョンって5人しか入れないんじゃないのか?」
「アレクはほんとにものを知らないんだな」
ここで以外にもカイルが口を開く。
「ラストダンジョンに人数制限はない。扉が開いている間なら何人でも入ることができる」
「じゃあ…」
俺が言葉を発するとカイルが内容を察し、説明を続ける。
「じゃあなんで軍隊を送り込まないのかだろ。それは食糧問題と自国の兵力をすべて割いて戻ってこれなかった場合に国が危うくなるからだ。今までだって仲間と潜る連中はいたと聞く。今回はたまたま全員独り身だっただけだろ」
カイルは視線を下から王の方へと向け続ける。
「役に立つのか、そいつは。ただの足手まといならいらない」
「それなら心配いらない。こやつは四肢が切断された兵士を五体満足に帰還させることができる」
ここで初めて全員驚いた様子を見せた。俺は回復術師というのには初めて会うからそのすごさもよくわからない。
「そんなにすごいのか?」
「すごいなんてものじゃない、オレの国の1流術師でも切断された腕を1本くっつけるのが限界だ」
「一応言うと、私は切断された部位がなくても再生可能です。あった方が魔力を使わないで済むのでありがたいですが」
スフィアがにこっと微笑むとみんなは豆鉄砲でも食らったかのように開いた口がふさがらないようであった。みんなが固まっている間に謁見は終わり、セルシャさんが俺たちをまた案内してくれるようだ。
6人は大きな扉の前にて一列に並ぶ。
「これがラストダンジョンか」
アレクは門をなぞるように視線をめぐらす。楽器の音が鳴り響き、ギャラリーの歓声が上がる。5人が右手を扉にかざすと紋章が光り輝きだす。それに共鳴するようにダンジョンの扉も光りだす。セルシャはアレクたちに小さな声で「いってらっしゃいませ」と言いお辞儀をする。扉が開き6人はダンジョンの中へと入っていく。
扉が閉まると壁の火がともり始める。そして先へ進めと言わんばかりに一直線に階段が続いている。
6人はゆっくりと階段を下りていく。
「どのくらい続いているんでしょうね」
「スフィアはどうしてラストダンジョンに潜ろうとしたの?」
「私ですか?そうですね。特に考えたことはないです。多分、生まれた時からこの国に育てられたので恩返ししたいだけですかね。そういうシズクさんはどうしてですか?」
「僕はね、世界の平和を願ってかな」
「幼稚な願いだな」
「は?じゃあジールの願いは何なのさ」
「言うわけないだろ」
「いや、これは重要なことだよ。だってさ、僕たちの願いすべてが叶えられるとは保証されてないからね」
「なに?」
「頭よさそうなのに気づいてないの?願いが叶うっていうのはそもそも噂だけど、それが複数叶えられるなんて聞いたことないからね。ま、一つだけとも聞いたことないけど」
話しつかれたのかシズクは静かになり、薄暗い階段には足音と装備の擦れる音だけが響き渡る。
階段の終わりが見えるとアレクは一人で飛び出し走っていく。それにつられるように全員が走り出す。
アレクは上を見上げて立ち尽くす。
「ちょっとどうしたのさ」
シズクはアレクの背中から顔を出しあたりに視線を向ける。そこには巨大な3つ首の犬が眠っていた。
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