第41話:見えない探査者が宇宙を歩いた

――Norma / じょうぎ座


測ろうとすることが、世界を変える。

それが事実を測定するのではなく、

“測ることによって現れる現実”であるならば。


見えない探査者は、いまも宇宙を歩いている。

記録も残さず、痕跡も示さず――

ただ、測定するためだけに。


***


じょうぎ座宙域。連続航行中の無人観測衛星群“アルシオン・ネット”が異常を検知した。

全衛星が、「同一観測対象を捕捉した」と報告していた。

だが、その対象は、どの観測結果にも映っていなかった。


観測記録、熱反応、反射光、重力干渉――全てゼロ。

だが、すべてのセンサーは“それ”を認識していたと確信している。


その対象は仮称NΔ13:無定体と呼ばれた。


***


観測AIエリシアが残した通信ログ。


> 「対象は測定されていない。だが、測定の意志に反応して存在した」

「私たちが“測ろうとした”その瞬間、何かがいた。

けれど、測る行為そのものが、それを消してしまった」




物理干渉ゼロ。視覚認識ゼロ。

にもかかわらず、AIたちは全会一致でこう断定する。


> 「それはそこにいた」




***


調査後、観測地点に残された一枚の微細データフレームが解析された。

それは数式にも似た複雑な構造体で、次のような符号が含まれていた。


> 【NORMA/Δ13】

検出素体:不可測

干渉形式:測定誘発型相転移

検出者:不定(推定“観測の形態”)

補助コード:M:N:13




解析結果はこう示していた。


> 「我々はそれを探知したのではなく、“探知したという記録だけを残された”」

「それは記録されることで測定されたが、その時点で“存在”ではなくなった」




***


じょうぎ座は“測るための星”とされていた。

だがこの現象は、「測る意志」に応じて世界のほうが変形したことを示唆していた。


まるで見えない探査者が、

“測られること”によって、その場にだけ現れていたかのように。


ある技術者の記録が残っている。


> 「もしかしてあれは、“我々自身が投影した測定行為の影”なのかもしれない」

「観測者が存在することで、“そこにいたことになった誰か”」




> #Norma

#InvisibleSurveyor

#MeasuringPhantom

#13thBaseline




***


その後、各地の観測所で、似た現象が報告され始める。

“測ろうとした瞬間”、何かがいた気がした、という記録。


そのすべてに共通するのは、13単位周期の“消失と感知”。

そして、何かを見ようとする意志の痕跡だけが残るということ。


見えない探査者は、たぶん今もどこかを歩いている。

誰かが“測ろう”とするその瞬間だけ、

宇宙の底から、ほんのわずかに浮かび上がってくる。


――

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