第42話:未来からの修正線

――Circinus / コンパス座


未来は、まだ起きていない。

だが、すでに“修正”が始まっていたとしたら?

“未来”とは、予測ではなく――訂正された過去のことなのかもしれない。


***


コンパス座宙域、標準軌道座標からわずか13.13度偏差した空間。

そこに突如現れたのは、**「不自然にまっすぐな線」**だった。


その線は実体を持たない。

光でも粒子でもない。

だが観測装置は明確にそれを“直線”として認識する。


しかも、その線は――未来から過去へと伸びていた。


***


分析官アヴィス・ハーンは、線の両端で検出された微細な粒子群を解析。

するとその構造が、現在の物理法則では“成立し得ない状態”であることが判明する。

しかも、線の発端では観測結果が常に未来の行動と一致していた。


> 「これは線ではない。“修正の記号”だ」

「未来のどこかから、過去に対して“この線を通せ”という意志が働いている」




さらに調査を進めると、13回の観測周期のうち

必ず1回、過去の記録が微小に書き換えられていることが確認された。


日誌、通信ログ、記憶補助装置――

いずれにも“誰も行っていない行動”が微細に挿入されていた。


***


中でも奇妙だったのは、ある記録端末にだけ出現した断片的な数式。

それは古典コンパスに使われていた幾何学パターンと一致していた。


> 【CIRCINUS/Δ13】

空間構成:非因果式交差構造

記録変位:-13cycle/sec

修正形式:未来起因型干渉

補助コード:M:N:13




研究主任ネイサン・カレドはこう記す。


> 「我々は未来を見ているのではない。

未来に“修正された痕跡”を見ているのだ」

「つまり、すでに“やり直された過去”を経験しているのかもしれない」




***


“線”は今も、空間に対して一定の影響を及ぼしている。

誰かが観測しようとするたび、

その線はわずかに傾き、次の修正ポイントへと軌道を変える。


あたかも、

「それではダメだ」と未来から**“指し直されている”**かのように。


> #Circinus

#FutureCorrection

#RewriteLine

#13thTrace




***


未来とは、過ぎた時間の先ではなく、

書き換えられた過去が“今”として顕れているものかもしれない。


ならばこの“線”は、

私たちが知らぬ間に何度も引かれ、

何度も消され、そしてまた――描き直されてきた記憶の境界線だった。


――

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