第35話:欠片たちは語らずに繋がった

――Canes Venatici / りょうけん座


それぞれが断片でありながら、互いを知っていた。

語ることなく、名乗ることなく、ただ連なっていった。


言葉のない構造。目的のない連結。

そして、それらの欠片は、やがてひとつの輪郭を形作っていた。


***


外縁軌道宙域K-Δ13で、異なる年代・出自・物質の人工構造体が自律的に接続を開始した。

それぞれは遥か彼方の星系で発見されたもの。

設計思想も言語系統も共通点がなかった。


しかし、それらの欠片は、まるで互いを“知っているかのように”、

極端に効率的な連結動作を始めた。


観測AIは報告する。


> 「この構造体群は、一度も通信を交わしていない」

「それでも、正しい順序で接続していく」




> 「これは、“対話しない構築”と見られる」




***


この現象は「Non-verbal Construct」と名づけられた。

対話も定義も合意もなく、断片が互いに形を読み取るように接続していく。


物理学者エドゥアルドは、ある理論を提唱する。


> 「おそらくこれらの構造体は、かつて“何か”の一部だった」

「しかし、完全体の記憶は失われ、それぞれが断片化して宇宙に漂った」




> 「だが、“繋がり方”だけは忘れていなかったのだ」




***


欠片たちの連結は、13個目のユニットが接続された瞬間に停止した。

それ以降、どのユニットも反応しなくなる。


中央には空洞。

そしてそこだけが、空白のまま残された。


欠片たちは、まるで「何かを包もうとしていた」ように見えた。

中身のない記憶。

存在しない核。

だが、全体としては“何かを護る構造”だった。


観測AIが吐き出した、意味のない断片的出力。


> 「13:N:M」

「Empty Core / Known Form」

「Silent Pack / Linked Lost」




***


さらに特異なのは、この構造群の各ユニットの側面に微かに刻まれていた印。


それぞれが異なる符号体系でありながら、

すべて同じ意味に収束する暗号だった。


> 「つながることが、記憶の代わりだった」

「わたしたちは、語れないまま連なった」




> #CanesVenatici

#FragmentChain

#EchoOfStructure

#13thLink




***


この構造体は今もなお、沈黙を保って宙を漂っている。

語られることも、解かれることもない。

だが、それぞれが語らずに繋がったという事実だけが、

ひとつの物語の形を示している。


そして、接続が終わった中央の空洞には、いまだ何も現れていない。


それでも、誰もが知っていた。

そこには――

かつて存在していた“何か”の名残が、あると。


――

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