第27話:空白の寓話
――Centaurus / ケンタウルス座
語り部は言った。
「この物語には、はじまりも終わりもない」
それは、記された形跡だけが残された寓話。
内容は失われ、語られた記録も音声もない。
だが確かに、語られた“はず”の物語だった。
***
だが、地下に広がる空洞地帯には、無数の“彫刻された書”が埋まっていた。
それらは粘土板、金属プレート、光結晶といった媒体に記録されていたが、すべての文面は削られていた。
ただ、書かれていた“長さ”や“文の構成形式”だけは残っており、そこから逆算された物語の“枠組み”が提示された。
考古構文AIが算出した構造は、寓話と酷似していた。
起承転結。
導入、迷い、試練、報酬。
だが、その“内容”だけが存在しなかった。
***
研究員の一人であるフィン博士は、これを**「寓話の亡骸」**と呼んだ。
「この惑星は、物語の墓場かもしれない」
彼は試みに、残された構造データをもとに、AIに自動再構築させた。
出力されたストーリーは、奇妙な一貫性をもっていた。
> 「半獣の記憶なき守人が、13の道標を超えて“失われた物語”を探す」
> 「彼は自らが語られたキャラクターであることに気づき始める」
> 「だが、物語が語られたことがないため、彼の存在もまた不安定になる」
寓話の中に出てくる“半獣の守人”――それは、ケンタウロスと呼ばれていた。
フィン博士はその直後から、ある夢を繰り返し見るようになる。
夢の中で、ケンタウロスが語りかける。
> 「私は、かつて“誰か”に語られた存在」
「今はもう、語る者も、聞く者もいない」
「ただ、“構造”だけが私を引き止めている」
博士は目覚めたとき、枕元に光の痕跡で浮かぶ文字を見た。
> M:N:13
物語構造識別キー「ΣΔ13」
***
この出来事以降、惑星全体の地殻に“微細な共振パターン”が発見された。
それらは単なる地震波ではなく、語りの抑揚に近い波形だった。
誰も語っていない。
だが惑星そのものが、“かつての物語”を覚えていた。
科学者たちはこの現象を《エコーフレーム現象》と名づけ、構造語りの原型と見なした。
そして惑星の地下から、唯一削られていない彫刻が見つかる。
それは半獣の姿をした存在が、空白の巻物を掲げる姿だった。
巻物にはなにも書かれていない。
だが、見た者の脳内には“異なる物語”が思い浮かぶという。
***
語られない物語は、やがて誰かに思い出されることを待っている。
それは、語り部も聴き手もいない世界で、なお生きようとする“寓話の本能”。
そしてそれらのいくつかは、こう告げている。
> #Centaurus
#EchoFable
#LostStructure
#13thTale
「もしあなたが物語を思い浮かべたなら、それは“語られる前から存在していた”」
――
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