第25話:輪郭なき咆哮

――Lupus / おおかみ座


はじまりは「音」だった。


惑星カノープスγ系に設置された無人観測機エコー・スレッド19が記録した奇妙な音波。

それは言語でも音楽でもなく、ただ“遠吠え”に似ていた。


地球に送信された波形は、あまりに不自然だった。

音の周波数は**測定不能な“中間値”**であり、既知の振動パターンには一致しなかった。


ただ、音に反応して“感情”を記録する脳波同期AIだけが、あるデータを生成していた。


「恐怖に近い郷愁」


***


調査隊は“音の発信源”とされる区域に降下した。

だがそこには何もなかった。


植生もなし、建造物もなし。

ただ、地表に“何かが歩いた”ような痕跡があった。


狼に似た四足の獣の足跡――だが、どれも“左右対称”だった。

自然な動物の動きではない。


歩くための「模倣」。

この地に“存在するべきだった何か”の、記憶の再現だった。


調査員の一人が、こんな夢を見たと報告した。


> 「黒い毛皮の何かが、私の名前を呼んでいた。

声がなかったのに、はっきりとわかった」




> 「それが、かつて“私”だったような気がした」




***


調査チームは精神汚染の懸念から隔離措置を取った。

だが、その後も基地内で咆哮のような反響音が鳴り続けた。


一つの端末に、謎の文が残されていた。


> 「それは形なき狼。名前なき追跡者」

「私たちは“かつての自分”に追いつかれないように逃げている」




そして、誰かが追記していた。


> 「13回、夢の中で吠えられたら、次は目の前に現れる」




***


最終報告に記録されたのは、観測機のオーディオファイルの一部。

そこには、“音”ではなく、“空白”が記録されていた。


無音――ではない。

何かが“音を拒否”したような、負の波形。


それは、咆哮そのものの“影”だった。


後日、研究者がその空白を音声波形に再変換した際、音の端に微細な構造が浮かび上がった。

M、N、13――これまで複数の事件で観測されたものと酷似していた。


***


いま、この宙域を通る探査艇の一部では、同じ咆哮が受信されるという。

音は方向性を持たず、むしろ“内側”から聞こえるように感じられるという。


あるパイロットは、こう記録を残した。


> 「あれは、誰にも気づかれなかった“生”の声だ」

「それは今も、星々のあいだを歩いている」




咆哮に、輪郭はない。

だが、その存在だけは確かに宇宙のどこかで震えている。


> #Lupus

#声なき声

#EchoHowl

#13thDream




――

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