第24話:王なき鍵
――Corvus / からす座
あらゆる扉は、鍵を求める。
だが、その鍵が“誰のものでもない”としたら――
その扉は、どこへ通じるのか?
***
外見は無人だが、地殻内の微振動や通信パケットの痕跡から、内部で何らかの活動が続いているとされる。
この都市には入口がない。
ただひとつ、“鍵孔”だけが存在する。
それは、都市中央の浮遊モノリスに刻まれた、巨大な“断層状の空洞”。
当局は長年にわたり、鍵を探索してきた。
DNAコード、音波パターン、周波数共鳴、果ては詩文や記号までもが試されたが、開かない。
その中で、ひとつだけ異常な反応を示したものがある。
それは、名前のない人物によって提出された“空の鍵”。
物質的には存在せず、データとしても記録不能。
だが確かに反応があり、モノリスの一部が震えた。
以来、そのデータは《王なき鍵(Kingless Key)》と呼ばれた。
***
その後、名前不明の提出者の記録が発掘された。
断片的にしか残っていないが、奇妙なテキストが存在する。
> 「この鍵は、“権限”のない者だけが持てる」
「それは記憶ではなく、“期待”のかたち」
> 「13人目の観測者が消えた時、扉は自らを“開いたことにする”」
研究者は混乱した。
鍵とは、開けるための道具ではなかったのか?
ある者は言った。
「この扉は、“開かれることを記録したい”だけなのでは?」
では――鍵とは、“記録そのもの”か?
***
やがて、都市は“自発的に”動き始める。
浮遊していたモノリスが傾き、ゆっくりと内部から何かを押し出す。
それは、一本の黒い羽根だった。
解析不能。物質反応なし。
ただ、羽根の軸にはごく小さく刻まれていた。
> M:N:13
それは、かつてどこかで見た“鍵と鍵穴の比率”に似ていた。
羽根は鍵ではなかった。
鍵の痕跡。
誰かが使った鍵の、“残り香”。
***
それから都市の中では、不可思議な光が観測された。
外から見えるのに、中へは行けない。
誰かが歩いている。
名前のない誰かが、すでに中にいる。
研究者たちは都市を囲む観測室に、次のようなメッセージを刻んだ。
> 「鍵は所有するな。
ただ、鍵で“あった”ことを覚えていろ」
***
数年後、《王なき鍵》は模倣不能な構造として記憶図書館に保管された。
その形式は――“無記名の記憶”。
そして新たな扉が、別の星系で見つかる。
そこにも鍵はない。ただ、同じように刻まれていた。
> #CORVUS
#KINGLESS_KEY
#UNCLAIMED_ACCESS
#EchoFeather
その羽根を見て、ある研究員がこうつぶやいた。
「この鍵、ずっと前に夢で見た気がするんだ……」
それが“誰の夢”だったのかは、最後まで不明だった。
――
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