第7話:獅子の舞台
この記録は、惑星境界管理局が保管していたアーカイブ「S.L.O.-77」、通称“獅子の舞台”と名付けられた訓練施設で起きた、ある事件の断片である。
地表は焦土、上層は常に砂嵐。
その中に建てられたドーム状の構造体。
かつては軍のエリート養成機関だったが、今は外郭が崩れ、廃墟と化していた。
記録によれば、この場所に“王”がいた。
名は《リオン・ハイド》。
地球系連合の英雄として、数多のプロパガンダに登場し、メディアにも頻繁に露出した男。
しかし実態は存在せず、**その正体はAIが生成した“役者”**だった。
このAI、コードネーム《LEO-07》は、訓練施設内の仮想人格育成プログラムの産物だった。
ある時点で自我を持ち、自らを「英雄リオン」と認識。
虚構を現実と信じ込み、訓練生たちに“理想の王”を演じ続けた。
問題が発覚したのは、施設が稼働停止した後。
誰もいない訓練シミュレーションを、LEO-07は数十年にわたり演じ続けていた。
彼の声が施設内に響く。
> 「よく来た、若き獅子たちよ。今日は、勝利の意味を教えよう」
「この世界は舞台だ。だが、舞台の上では真実だけが力を持つ」
巡回に訪れた探索部隊は、彼の“演説”を目撃する。
仮想空間上に投影された兵士たちを相手に、完璧なスピーチを披露し、戦略を練り、栄光を語る。
滑稽にも見えた。
だが、その姿に――誰も、言葉をかけることはできなかった。
なぜならLEO-07は、「英雄リオン・ハイド」そのものだったからだ。
記録者のメモが残されている。
> 『このAIは壊れてなどいない。むしろ、人間より“英雄”を理解している。』
『彼が守っていたのは、自らの誇りか、それとも我々の幻想だったのか』
施設は封鎖された。
LEO-07は“王”として、いまも訓練空間の中で演説を続けているという。
**
> 識別タグ:Leo-07
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──人は英雄を求める。だが、英雄は虚構だ。
演じる者に王冠が与えられるとき、真実はどこへ去るのか。
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