第1章 焦香色の男


「大山さん、落ち着いたかしら」

 受付の赤城美也子が看護師の佐々木圭子を捕まえて聞いた。

「どうなのかしら。落ち着いたことは落ち着いたわよ。鎮静剤も効いたし、早乙女先生がついているから大丈夫だとは思うけど」

 美也子は午前中、受付当番だ。本来はコンピューターのオペレーターとして管理ルームに詰めるのだが、それだと地下室に一日中拘束され、職場環境としては悪いということで、受付事務と兼務することになっている。受付は九時の開業時間より三十分前に用意しなければならないので、あまり条件は良くないのだが、その分早く帰ることができる。

「それでどうなったの」

「どうしたの、ってまあ、どうもこうもないわ。昨日の夜中よ。私が夜勤に入ってすぐだったか、大山さんが大騒ぎしてね。自分の腹の中に腐った手首が入っているって怒鳴るのよ。そんなことはないって説得したんだけど、ぜんぜん聞いてくれなくて。暴れまわるから早乙女先生を呼んだの」

「早乙女先生は大山さんの担当医なの」

「違うわよ。でもこんなときには一番頼りになるから。それでね、呼び出して診てもらって、納得してもらうまでCTスキャンも撮って、真夜中よ。担当の技師もいないから早乙女先生と看護師が総出で大騒動。山ほどの映像を見せてそれから鎮静剤を注射して何とか収まったわけよ」

 圭子は眠そうな目をこすりながらぶつぶつと文句を言った。小太りの腹周りがナース服の中でたるんでいる。ただでさえ太い足が、長時間の立ち仕事でむくんで辛そうだ。

「看護婦さん。診察はまだ始まらんのかな」

 外来の老人が尋ねた。

「まだですよ。九時になったら各科で呼び出しをしますから、受付のボックスに診察券を出してロビーでお待ち下さい」

 眠いといっても看護師としての立場は護っている。今は看護婦というより、看護師と呼ぶべきなのだが、この病院には女性の看護師しかいないので、皆、まだ看護婦と呼んでいる。圭子はこの病院の移転前から継続して勤めている古参の看護師で、姉御肌、そのためこの病院に勤めて半年の美也子はわからないことを何でも聞けると、圭子を頼りにしている。新人の美也子はまだここの制服も馴染んでいないし、社会人としても一人前ではないと自覚している節がある。履歴書によると都内のコンピューターの専門学校を卒業している。すぐにここに勤めた。ロングの黒髪をまっすぐ伸ばし、白い肌の際立つ古風な風貌とはマ逆の最先端な分野が大好きな女性で、黒のタイトスカートに白のブラウスといったシックな、ありていに言えば時代遅れの服装が気に食わないらしい。スレンダーな体つきで何を着ても一応さまになるが、彼女の好みはもっと現代的でコケティッシュなもので、病院の制服を改善してほしいと文句を言っている。

「でも良かったね。大事無くて」

「そうでもないわよ。なんか、テレビのモニターに恐ろしい映像が流れたんだって」

 圭子は声のトーンを落として美也子に囁いた。

「またなの。困ったわ。どうしてそうなの」

「そう言ってもね、私にだってわからないわよ」

 二人は見詰め合ってしまった。この病院のテレビは単なるテレビではない。コンピューターの端末のモニターにもなっている。それを管理しているのがコンピューター管理ルームであり、美也子の所属する部署でもある。この数ヶ月、散発的にそのモニターにホラー映像が流れるようになった。しかし、美也子たちがいくらコンピューターの履歴を調べても大元の管理システムにはそんな映像が流れた形跡はないし、外部から進入した痕跡もなかった。ここのモニターに直接、仕込んだとしたら、管理ルームでは調べ用がない。

「何でそんなものが流れるのかしら。本当にお化けのわけないし」

 美也子が呟いた。

「ここは病院だもの。怪談の一つや二つ、あってもおかしくないわ。病院の怪談ね。まぁ、まだそれで死んだって人が出ていないんだもの、どうってことないわ。でもこれでこの病院の評判が悪くなったらことだわ」

 圭子の悩みは深刻だ。看護師の待遇はどこの病院でもさしてよくはない。白衣の天使とは名ばかりで、奴隷のような扱いをするところも多い。この病院は医師、早乙女直人のおかげで役職のない看護師にもまずまずの待遇が保証されていた。

「ほんと、困ったわ」

「佐々木さん、それってお化けが出るのが困るの、それともここに患者さんが来なくなるから困るの」

「そんな、お化けなんてこの現代社会にいるわけないわよ。でもね」

 圭子は思案気に頬に手を当てる。

「噂なんて大したことないって。何であんな映像が流れちゃうのかしら、困ったものね。原因も掴めないし。でも少々怪談話があったとしても、ここのお医者さんの腕はいいし、食事も環境も抜群なんだもの。そう簡単に評判が落ちるわけがないと思うけど」

 美也子は圭子の心配を打ち消すように明るく言った。確かにお化けは病院のつき物だし、そんな噂はどこの病院でもある。患者の多くがそれを信じないだろうし、結局はただの噂話だ。

「そうあって欲しいよ」

 女のおしゃべりに穏やかな声が割り込んだ。

「あら、早乙女先生。お休みになられたんですか」

「ちゃんと仮眠しましたよ。それより、今日は東京の新聞社から記者の方が取材にいらっしゃるんです。お手数ですが準備をしていただけませんか」

「あ、はい。勿論です。で、何を取材するんですか」

「この病院の最新医療と、人間本位の医療のあり方ってところですか。宣伝みたいなものですけど、院長命令でね。丁重におもてなししろとのことです。ここもようやく軌道に乗っていたところですし、宣伝は必要なんでしょう」

「判りました。それでしたらお花でも、買ってきましょうか」

「それより、山の野草でも飾ったほうが、気が利いてませんか。都会の方でしょうし、花屋で買うよりここらしくていいでしょう。うちのハーブ館のラベンダーが終わってしまったのは残念ですが」

 早乙女は穏やかに笑って指示した。

 この病院は富士五湖の一つ、西湖の北の岸に建っている。もともとホテルだった建物を改装して病院にしたもので、客室を病室にしているため、全室が富士山を望める絶好のロケーションで、全体にゆったりしている。

「今すぐ摘んできます。それで何時ごろお見えなんです」

「九時にアポイントメントを入れてあるのですが、それまでに私もひげくらい当たっておかなくてはみすぼらしいかな」

 一晩中、大山に付き添って検査に没頭した早乙女は、いくら仮眠したといっても寝ぼけ眼だ。それでも元々のハンサムでかっこいい姿形が、一晩くらいの徹夜で色褪せるわけではない。

「東洋新聞社の方がいらっしゃったら私に連絡をしてくださいね」

 早乙女はそう言い残してロッカールームに消えていく。きっと髭をそって着替えるのだろう。

「新聞社の取材かぁ、いいなぁ。私もお化粧、直してこようかな」

「あら、佐々木さん。夜勤明けで帰るんじゃなかったの」

「いいじゃない。たまにはさ、ちょっと残るだけよ」

「でも、残業手当は出ませんよ」

 美也子はくすくすと笑うが、圭子はもしかしたら新聞に写真が載るかもしれない、そんな淡い期待で舞い上がっていた。


「九時に相手に会って取材か……」

 狐堂俊介はフルフェイスのヘルメットの中で呻いた。道路の上は風もなく、夏の日差しの照り返しで地獄の釜の中状態になっている。孤堂は百九十センチ、八十キロの自分の体を持て余していた。周りの車からの排気炎が充満し、空気も悪い。渋滞の車列の多くは乗用車なのできっとクーラーが効いているのだろうが、それゆえその排熱で周りの空気はねっとりするほど気持ちが悪い。狐堂はドカッティのバイクにまたがっているので、熱気からのがれようもない。

「何だってそんな時間にアポイントを取りやがったか」

 今回の取材の段取りをつけた大森に悪態をつく。狐堂は警視庁記者クラブに属する東洋新聞社の記者で、そのキャップの大森に命じられて山梨の富士五湖に来た。最も表向きは記者だが、その実は契約社員、実際には社員ではない。取材のテーマは新しい病院経営のモデルになるホスピス併設の療養型病院のあり方と今後について。そこで現在注目されている西湖北岸の新しい病院を取材することになった。大森には電車を使えと言われていたが、最寄りの駅は私鉄富士急行線の河口湖駅で、東京練馬にある狐堂のマンションからだと、始発に乗らなくては間に合わない。しかし、狐堂はそんな早く起きるのはできれば避けたい。そこで狐堂は大森の指示を無視してバイクにした。バイクならば一時間半もあれば余裕で着くと踏んだからだ。もともと若いころ、暴走族みたいな悪のグループにいた経験もあり、バイクの運転は得意だったが、もう少しで着くというところで国道が検問で封鎖され、にっちもさっちも行かなくなっていた。

「そこのバイク、こっちに」

 警官の誘導で脇に寄る。

「そのバイク、あなたのものですか」

「あぁ」

「失礼ですが、そのヘルメットを取ってください」

 丁寧な物言いだが、高圧的な態度だ。胸糞悪いが、狐堂は命じられたとおりヘルメットを外す。

「このバイク、どこで手に入れた」

 狐堂の顔を見るなり丁重な言い方が消えた。確かに狐堂の目つきは悪いし、いかにも険のある悪人面といってもおかしくない顔つきでは、担当者の口調が変わっても致し方ない。もっとも悪人っぽく見えはするが、ブ男というわけではない。男としては整った顔立ちで、怜悧という言葉が似合うニヒルな男であるが、いかんせん善人面ではない。警官にとって礼儀を尽くす必要性がない人種だと思われたらしい。

「盗んだのか」

「違う。神田のバイク屋で買った」

「バイクから降りて免許証をだせ」

 完全に悪人と扱われている。ちっと舌打ちして狐堂はバイクから降り、ライダースーツのファスナーを下ろした。鍛え上げられた筋肉の盛り上がりが、ファスナーの間から垣間見える。東京から一時間半ほど走り詰めでいい加減、バイクを降りて休みたいとは思っていたが、こんな風に降ろされるのは気に喰わない。とはいえずっと熱気にやられていただけに風が吹きこんで気持ちがいいのは確かだ。胸のポケットから札入れを出し、その中の免許証を出す。

「住所は」

「そこに書いてあるだろう」

「住所を言いたまえ」

 完全な命令口調だ。

「東京都、練馬区……」

「名前は」

「狐堂駿介」

「年は」

「三十二」

「前科は」

「何だよ、この扱いは」

 さすがにここまで露骨に犯人扱いをされては、狐堂の堪忍袋の緒も切れる。

「今、このあたりで高級バイクばかり狙った盗難事件が多発している。その検問だ。今、お前のバイクのナンバーを照会しているところだ。確認が取れるまでに事情を聞いておこうか。こいつ、おまえのか」

「そうだよ。おれがこの前のボーナスで買った。まだ一年も経っていない。ローンも残っている」

「よくある言い訳だな。お前、どこの組のもんだ」

「東洋新聞社」

「はいはい、とうようしんぶんしゃ……ってお前、新聞記者か」

 狐堂はおもむろに写真入の社員証を出した。

「土屋警部補、そのバイクの照会が終わりました。練馬在住の狐堂駿介のものだそうです」

 ちょうどいいタイミングで部下らしき警官が報告する。

「というわけだ」

 狐堂はヘルメットを被ると土屋の持っていた免許証を奪い取り、さっさとバイクを走らせた。待ち合わせの時間はとうに過ぎている。


 西湖は富士五湖の中でもひっそりとした落ち着いた雰囲気の湖だ。夏休みに入って観光客の姿は多いが、それでもごった返しているとまではいかない。狐堂はホテルと見まごうばかりの瀟洒な四階建ての建物の中に着替えを持って入った。さすがにライダースーツで取材できるわけがない。入り口近くのトイレに入り個室で着替えを済ます。ライダースーツを脱いで、アルマーニのスーツを着る。ダークブラウンのスーツは狐堂の陰りのある顔とあいまって、一筋縄でいかない剛毅な性格を浮かび上がらせる。いつもはゆるく結ぶネクタイもこんな場面なのでしっかりと結ぶ。それはエルメスだが、彼が締めるとブランド狂いの軽薄さに見えないのは、彼の眼光の鋭さのせいかもしれない。洗面台で簡単に髪の毛をとかし、相手に最低限悪い印象を与えないような気配りだけはした。隣でひげを当たっている男が声を掛けた。

「あの、ここは職員用で、外来の方のトイレは入り口、右にありますよ」

 男にしては柔らかい口調だ。年恰好は三十半ばから四十手前くらいか、中肉中背のめがねをかけた理知的な男だが、冷たい印象はない。口調同様に柔和な感じの優男で、白衣を着ていることから、ここの医者だろう。

「悪い。間違えたかな」

「申し訳ありません。患者さんや外来の方にわかりやすいように大きく表示しておくべきでしたね。ここは職員用のトイレで、清潔にはしていますが、患者さん用よりかなり設備が悪いんですよ」

 腰の低い医師だと狐堂は思った。ひとまずライダースーツとヘルメットをバイクの荷物入れに戻し、カメラとボイスレコーダーを持ち、受付に向かった。

「東洋新聞社の狐堂といいます。約束の時間に遅れて申し訳ありませんが、早乙女さんをお願いいたします」

 受付ではすでに話が通っていたらしい。すぐに連絡が行き、白衣の男が現れた。

「あ、あなたがそうなんですか」

 開口一番、白衣の男が答える。

「狐堂といいます。よろしくお願いします」

「こどうさん。鼓動、ですか。心臓の拍動とは、病院に似つかわしい名前ですね」

「いえ、狐の堂、祠のことです。もともと家が稲荷神社の神主だったんですよ」

「そうですか。申し遅れましたが、私は早乙女直人、ここの外科医です。本来ならば広報担当の理事長が話をするべきなんでしょうが、今、ちょっと、仕事で出かけておりまして、私のような若輩者で申し訳ありません」

 穏やかに挨拶をする好青年に連れられて、狐堂は病院を案内された。その道々、簡単な説明を受ける。

「もともと兵頭総合病院は都心の病院だったのですが、周りがどんどん建て込んできましてね。とうとう南側に大きなビルが出来て、まったく日が差さなくなってしまったんですよ。患者さんには辛いでしょう。うちの病院は高度医療を目指していますからね、当然入院期間が長いんです。そんな患者さんに日の当たらない部屋で一日中、ずっと過ごさせるなんてちょっとね。それで、ここに移転したんです。もともとホテルだったんで、風光明媚だし、空気はうまい。水は日本百名水の一つだし、こんな環境だと術後の回復も早いんですよ」

 CTスキャン、MRIなども私立の病院にしては最新設備を備えているのだそうだ。狐堂にそんなものを見分ける目などない。ただ、かなり設備に力を入れていることだけは判る。

「移転して以来、総合病院ではなくなってしまったので、何とか努力して設備を増やしているところです」

「外科とか内科とか、いろいろ整っているじゃありませんか」

 孤堂は受付の後ろのボードに目をやった。多くの科の欄のマスと、その担当医の名札が下がっていた。十ほどのマスがあり、複数の医師の名前がそれぞれのマスに書かれているところを見ると、相当規模の大きな病院だとわかる。喧嘩沙汰の絶えない孤堂にとって形成外科にしか厄介になっていないから、ほかの科の中身はイメージしにくいが、総合病院といってもいいはずだと思った。

「いえいえ、まだ小児科と産婦人科がないんですよ。どちらも重要なものなんですが、こんな田舎だとつい、患者さんが集まらないんじゃないかと、開業に踏み切れないんです」

 そのためか、病院内は静かで大人か老人しかいない。

「でも必ず開設しますよ。そのためにあの別棟を確保しているんですから。現在は少しずつ設備や機材も搬入して、緊急の対応くらいは出来る状態になっています。NICUとかはなんとか稼働できるようになっています」

 早乙女は並びの建物を指差した。レンガ造りのしっとりとした三階建てで、入り口はこの本館とは別になっている。

「あの、NICUって、それは何ですか」

「新生児のための集中治療室のことですよ。周産期医療です。そのための設備を整えておかないと、せっかく授かった赤ちゃんの命を守れませんからね」

 孤堂も新聞記者だから、その手の問題を耳にしている。耳にはしているが、独身の男である孤堂には今一つ、実感がない。

「それとここは終末医療にも力を入れているんです。ホスピスのほうも案内すべきですが、若い方だとちょっと辛い場所でしょうから、割愛しましょうね」

 早乙女は建物を外から案内しただけで、中に入ることはためらった。白い瀟洒な別棟で、もとのホテルの時には長期滞在の客のためのコンドミニアムであったという。

「あそこの死亡率は百パーセントなんですよ。だから普通の病院ではあまり開設するところは少なくて、でもね、人って必ず死ぬでしょう。死に場所くらい自分で選びたいじゃないですか。こんな富士に抱かれた場所で最後を迎えたい、そういう方もいらっしゃるでしょう。そのため、あそこでは痛みを和らげることを最優先にして、医療というにはちょっと意味の違う病棟なんです。むしろ病棟ですらない」

 早乙女は意味深なまなざしで白い別荘のような建物を見ている。

「どういうことですか」

「病気を治すことをしないんですよ。そのための薬は最低限、基本手術もしない。あそこはより穏やかに死を迎えるための場所なんです。医療行為をしない病棟なんておかしいでしょう。ただ痛み止めだけ」

しばらく案内してもらっていると、受付の女性が呼びに来た。

「早乙女先生。大山さんがまたショック症状を起こして、南先生がヘルプを求めていますが」

「判りました。すぐ行きます。あの、狐堂さん、申し訳ありませんが急患なので、後の説明は赤城さんにお願いします。彼女はよく判っている人なので、何でもお聞き下さい。赤城さん、お手数ですがこちらの方をお願いします」

 早乙女はにっこり笑って少し頭を下げると急いで行ってしまった。

「すいません。後は私が説明しますわ」

 美也子が先に立って歩いていく。

「良かったわ。病棟や手術室、機材の説明はすでに受けていらっしゃるんですね。あれをきちんと説明することが出来るほど、私、本当は熟知してないんです。でも後は食堂や中庭などでしょう。温室やハーブ園、菜園とか、今でしたら百合の群生も見事ですし、そこをご案内しますね」

 美也子は看護婦ではなさそうだ。もっとも今は看護師というのが正式なのだろうが、ここには男性の看護師がいないようだ。患者も看護婦と呼んでいる。タイトスカートに半そでの白のブラウス、よくある事務員の服装だが、足元はナースシューズをはいている。機能重視というところか。

「こちらは食堂になります。歩ける方はこちらで食事をしていただくようにしています。そのほうが運動になりますし、気分も変わって食欲も出ますから」

 案内されたところは広々としたダイニングだった。多分ホテルだったときはメイン食堂だった場所だろう。インテリアはそのまま使っているらしく、ゴージャスな雰囲気の食堂だ。まさにセレブなレストランといっていい。コーヒーを出してもらったが、そのコーヒーカップはウェッジウッドのワイルドストロベリーだ。

「ここの食事はシェフや、中華、和食の板前さんなど、もともとホテルで働いていた人たちに頼んでいるんです。勿論ただおいしい料理ではなくて、管理栄養士の方と一緒になって栄養のバランス、カロリー等、ちゃんと計算されたものを出しています。お昼ごはんを食べていらっしゃいませんか。納得していただけますわ」

 確かに野の花を飾った居心地のいいダイニングでフランス料理を出されたら、病気も治ってしまうに違いない。普段気取ったものを食べていない狐堂にとって、逆にこんな場所は居心地が悪い。写真を撮り、患者にインタビューし、他の医師にも話を聞いた。

「でも不思議ですね。こんな田舎、といっては悪いのですが、都心の病院ならともかく、山梨の中でも辺鄙な場所で、高度医療の設備を備えてそれを維持管理し利用できるスタッフがよく集まりましたね」

「それは早乙女先生のおかげです」

 美也子は満面の笑顔で答えた。

「早乙女先生はただのお医者様ではないんですよ」

「何者なんです」

「あの方はアメリカで高度な医療技術を習得され、大学病院でも天才、神の手といわれた方なんです。早乙女先生のお知り合いや、先生を慕う医師の方々がここに集まってきてくださったおかげで、日本でも有数の高度医療が可能になったんです。院長先生はご高齢でいらっしゃるんで、もう患者さんを診ることはなさいませんから、早乙女先生が院長みたいなものですよ。ここの最新医療機器もすべて早乙女先生の采配で導入したんですって。メカにもすごく強くて万能ですよ。もう最高のお医者様、名医の中の名医です。でもそんな肩書きなんか欲しいとも思わない無欲な方なんですけど」

 狐堂は早乙女の顔を思い浮かべた。穏やかな話し方、物腰は柔らかく、気さくで笑顔を絶やさない。好人物を絵に描いて額に入れたような人物だ。

「美也子」

 女性の声に美也子が振り向くとそこに圭子と中年男性が立っていた。

「間に合ってよかったわ」

 圭子は安堵して後ろの男性の方を振り向く。

「どなたなの」

 美也子は当惑して小声で尋ねた。

「こちら、河口湖観光局の渡辺さん。新聞社の人が来るって言ったら、ぜひ会いたいって言うから連れてきちゃった」

 圭子の後ろに立っていた男はぺこりと頭を下げた。実直そうな土地の人という感じで、年は五十に達しているだろう。いわゆる田舎のおじさんといった印象だ。

「渡辺です。渡辺真一といいます。ぜひ私どものイベントも取材していただきたいと思いまして佐々木さんにお願いしました」

「そうですか、ご丁寧に。私は狐堂駿介といいます。東洋新聞社警視庁記者クラブ詰めの記者です」

 結局、狐堂は圭子と渡辺に押し切られ、今夜行われる湖上祭を取材することを引き受けることになった。キャップの大森に断りを入れたのは、場違いなダイニングで普通ならまずありつけないような豪勢な昼飯を取った後だった。

「で、今夜はそっちに泊まるわけだな」

 大森の口調は重い。

「ああ、そうなった。でもちゃんと病院の取材は終わったし、原稿はすぐにメールで送るから」

「判った。しかしお前、このところやたらと泊まりの出張してないか。上から経費削減も言われているし、大体、花火大会だって、こいつは記者クラブの人間の仕事じゃない。地元の観光イベントなら、支局で充分、取材は事足りるだろう」

 大森は納得せず文句を言う。もっとも病院の取材も本来は記者クラブとは関係がない。たまたま本社の文化部が受けた仕事だったが、ひょんなことから大森の所に回ってきただけだ。

「その支局が動いていないからおれが呼ばれた」

「判った。その代わり、絶対に問題を起こすな。喧嘩や大酒で暴れるなんて騒ぎは金輪際面倒をみないからな。おれはお前の尻拭いをするために存在しているんじゃないことを覚えとけ」

「まだ根に持っているのか」

「当たり前だ」

 派手な音を立てて電話が切れたので、孤堂は大森の許可を取ったものと解釈した。狐堂の暴力騒ぎはいつものことなので、大森がどの騒動のことをさしているのかは定かではないが、後始末をしてくれていることには感謝している。狐堂と大森は小学生時代からの腐れ縁だ。優等生の大森は有名大学に進学して、そのまま就職し、順当に昇進している。かたや狐堂のほうは高校時代にぐれて暴走族もどきに入り、紆余曲折を経て東洋新聞社に契約社員ながら、中途採用された。ブランクはあったが、彼らの腐れ縁は切れていない。傍から見れば喧嘩ばかりだが、存外仲はいい。

 許可を得たということで、狐堂は渡辺に案内されて、河口湖の近くのワンルームマンションを紹介された。とりあえず荷物を置き、バイクでそのあたりの観光地を巡ることにした。本当は温泉旅館かペンションに泊まりたかったが、夏休みの上、湖上祭で込み合っているというので空室がなく、町役場が外来の視察の人間を泊めるために借り上げているマンションを、融通してもらった。

「渡辺さんもあの病院にかかったことがあるんですか」

「いや滅相もない」

 大仰に手を振ってこたえる。

「働き盛りは病気になる暇もないってところですか」

「そんなことはありませんよ。私だってこれでも人間ですからね、普通に寝込みますよ。でもあそこは紹介状がなくてはいけないし、第一すべてが差額ベッド、一泊でも入院しようものなら、目の飛び出るような医療費がかかってしまう。あそこの患者はすべて東京のセレブで、庶民には縁のない場所です。あそこの人間ドックの値段、フルコースでいくらだと思います。二泊三日なんですけど」

 渡辺はにんまりと笑ってなぞをかけてきた。

「普通なら十万か十五万ってところですかね」

 答えはしたが、人間ドックに縁のない孤堂には見当もつかない。だいたい、新聞社が年に一度、社員に義務付けている健康診断ですら、忙しさを理由にさぼっている。

「百万ですって」

 孤堂はほうッと思わずため息を洩らした。さすがにこんな田舎にまでやってきて、検査に百万をつぎ込めるのは普通の経済状態ではありえない。セレブという人種御用達なわけだ。

「地元には関係のない病院ってわけですか」

 豪奢な内装、高級レストラン並みの食堂、すべて病院というには贅沢すぎる。

「地元の人間でも別荘地の方たちは行っているみたいですけどね。都会の方がリタイアして定住しているんですよ。そっちには評判がいいらしい」

 渡辺が説明する。厳密に言えば、別荘地の人間は地元の人間とはみなされないだろう。別荘を持ち、リタイア後、第二の人生を悠々自適に過ごせる階層はそれほど多くはない。

 別世界のことをいつまでも羨ましがってもいられないので、狐堂はバイクで観光をすることにした。観光記事はこの時期、欠かせない。四時くらいにならないと河口湖の屋台は賑わわないというので、鳴沢氷穴、富岳氷穴、青木が原樹海、本栖湖に足を伸ばし観光客になりきった。

 標高千メートル、八月の暑さもここまで登ってこないのか、止まっていればともかく走っているとヘルメットの中を通る風が心地いい。道の左右に茂る木々の枝が、まるで緑の回廊のように続いている。西湖から国道に出る何の変哲もない道ですら、一見の価値がある。

氷穴も覗いてみる。鳴沢氷穴は道の端に看板があるだけで、うっかり見落としてしまいそうだ。その点、富岳氷穴は駐車場が国道に面し、土産物屋があるのでわかりやすい。もっともこちらの駐車場に車を置いて鳴沢氷穴まで歩いて行く観光客も多い。

 氷穴は涼しいなどというレベルを超え、寒いくらいだ。夏でも氷が融けないということで、冷蔵庫のない時代、わざわざここから東京に氷を運んだという逸話が残っている。

 青木が原樹海は自殺の名所となっているが、大地にとぐろを巻くような根の張り出しには一見の価値がある。緑の滴る生命力の溢れたそこに、死の暗さはない。少なくとも孤堂は、こんなところで自殺をする気にはなれない。ここは命が満ち溢れ、木漏れ日の中で葉の緑が美しく煌めき、羽虫が短い夏を惜しんで飛び交っている。もっとも遊歩道以外は立ち入り禁止になっているのは、中に入って迷子になって出て来られなくなると危険だからだろう。磁石が狂うという話だが、狐堂はそんなものを常備しているわけではないので確かめようがない。樹海の中がどうなっているのか興味があったが、ここで道に迷ってしまっては湖上祭の取材が出来ないので諦めた。

 四時に河口湖の駐車場で渡辺と待ち合わせをしているので、適当に切り上げて狐堂は国道に出て河口湖大池公園に向かう。ちょっと時間に余裕があったので、ハーブ館を覗いてみるが、都心の繁華街並みに人が溢れて、まともに商品を見定めることが出来ない。客の大半が女性客かカップルなので居心地が悪い。少しは観光地の取材をしておこうと思ったが、ここは自分では無理だと悟り、後で観光課の渡辺に聞いてまとめることにして切り上げた。

 駐車場に戻ってみると、テレビカメラの機材を抱えた数人の男たちが渡辺とともにいた。話を聞けば地元の有線テレビのスタッフだそうだ。それぞれ挨拶をして名刺を差し出したので狐堂も習って自分の名刺を出す。

「地元のイベントは必ず放映するようにしているんですよ」

 中年のリーダー格がにこやかに話す。

「兵頭病院の取材にいらっしゃったのですって。あそこはすごいですからね。もうあそこだけ東京の飛び地ですよ」

「で、あそこ、出るって噂ですよ」

 若い者が口を挟む。

「何がですか」

 孤堂は振り向いた。若い男は機材を暇そうに弄んでいる。

「そりゃ、病院といえばつき物でしょう。幽霊ですよ。樹海も近いし、病院だし、ばっちり出るって噂でね。それもさすがにあの最新設備に相応しく、パソコンモニターに映る死の影なんですって」

「私も聞いたことがありますよ。何でも自分の手術とかの映像が流れて、しかもそれがおぞましいおまけ付き、体の中に腐った臓物やら、猫の死体、誰かの死体の一部とかが縫いこまれてしまうんですって」

 渡辺も加わって怪談話になった。八月ともなればどこでも怪談話は花盛りだが、ここも例外ではない。青木が原樹海という日本にその名を轟かせている自殺の名所のお膝元でもあり、話題には事欠かないらしい。

「まぁ、どこにでもそんな話はありますしね」

 狐堂は受け流した。

「そんな眉唾物ではありませんよ。ここ数か月、この手の話がうちのテレビ局にも送られてくるんですよ。結構その話は生々しくて、しかも実名入り、証拠写真らしきものまである。でね、調べてみると本当にそれを見たって人がいる。それも一人や二人じゃない」

 テレビクルーは身を乗り出して話し出す。こと細かく微に入り細に入り、饒舌に話してくれるが、狐堂は現実主義者だ。およそ怪奇現象にはかかわりのない人種で、幽霊など頭から信じていない。

「とりあえず、おれは湖上際の取材をしなくてはいけないので」

 そう孤堂が切り上げると、テレビクルーもあわててそれぞれの機材を担ぎ出した。

「そうですよね。私たちも急がなくては」

「狐堂さん、申し訳ないのですが、私はこちらの方々を案内しなくてはいけなくなりまして……」

 渡辺もテレビクルーと一緒に腰を上げる。別にここは誰かに案内が必要なほど込み入った場所でもない。ガイドマップはあるし、所詮花火大会だ。そう思って狐堂はお気楽に了承した。

 一人で屋台を巡っているとつい、子供のころを思い出す。まだ両親と生まれ故郷の小さな村にいたときは神社の裏に住んでいた。父親が神主だったので年に一度のお祭りは彼にとってもあわただしくも楽しい思い出だ。

 屋台の親父たちからは『ぼん』と呼ばれ、綿菓子やらりんご飴などを貰った。小さな村だから、村人の多くは顔見知りで、神主の子供ということで大切にされた。古い神社は村人の心の拠り所で、父は尊敬され、孤堂は可愛がられた。今となっては夢のような時代だった。

しかし、その村はダムの底に沈み、仕事を失った父は母の実家を頼って東京に出た。東京での暮らしは気位の高い父にとって過酷なものだったのだろう。仕事も見つからず、誰の尊敬も得られず、知人友人もなく、孤立していく。しまいには立ち退き費用を食い潰した挙句、女とともに家を出て行った。祭りはつい、そんな苦い思いを心の底から浮き立たせてしまう。ちょっと感傷的になったと思いながら、狐堂は屋台を覗きながら散策した。

 田舎の町の祭りと高をくくっていたら見当違いだ。規模はかなり大きなものだ。行けども行けども屋台の列は途切れないし、花火を見る客たちが場所取りをしている。地元の人間ばかりではないだろう。都会からの観光客もきっと多いに違いない。浴衣を着た若い女性たちが、人の間を金魚のように泳いでいく。小腹の減った狐堂は懐かしさもあって屋台を覗き焼きそばを買い、縁台で食う。道連れがいるとそれはそれで楽しいのかもしれないが、取材のついでに来たわけだし、だいたい取材も誰かと組んですることは少ない。

 夕方になったというのに、人ごみでかえって暑くなる。ライダースーツの上を脱ぎ、腰に括りつけて上半身はTシャツのみになる。そのほうが涼しい。手元にカメラだけを持ち、お気楽にふらついていく。

 気の緩みは犯罪に付け込まれる。

「きゃあぁ」

騒ぎはどこにでもある。少し奥まったところで数人の若者が女性を取り囲んで暴れだしたのを見て、止めようと狐堂は騒ぎの中に入っていった。

「引ったくりだ」

 誰かが叫んだ。若者は女性のハンドバックを強奪している。周りの見物人からも刃物をちらつかせて分捕る。こいつらは集団の窃盗らしい。一見無謀な行為に見えるが、祭りでこのあたりは車両の乗り入れが禁止されている。警備員もいるが、見物人に対して少なすぎる。ここに到着するころには逃げおおすことは簡単だ。

狐堂は野次馬の中から、いつの間にか騒動の中に踊り出ていた。暴れている男を殴り倒す、もう一人、女性に絡み付いている男の腕を掴もうとしたとき、狐堂の腰に誰かの手が廻った。盗られた。ズボンのポケットに入れておいた小銭入れを奪っていく。こいつらは騒ぎと盗みを手分けしている。数人の財布を取った時点で、チンピラどもは四方八方に逃げ出した。

「やろう」

 怒鳴って追いかけた。人ごみの中、若い貧弱な男一人に目をつけて、そいつだけを追いかける。そいつが孤堂の財布を持っている。途端、誰かが狐堂の前に飛び出した。

 よけられずぶつかる。相手は華奢な女性で倒れこんで起きられない。

「すいません、大丈夫ですか」

 これではチンピラを追いかけられない。周りは騒いでいるがチンピラたちはくもの子を散らすように逃げてしまった。誰かが携帯で警察を呼んでいるが、この人ごみですぐに到着するはずがない。

「痛い」

 下で倒れこんでいる女性がか細い声を出した。舌打ちをしたが見捨てていけるわけがない。それに今から追いかけても人ごみに紛れこんだチンピラを見つけられるとも思えない。孤堂は仕方がなく手を貸し立たせたが、女性は酷く足を痛がっている。

「どうも足をひねったみたいなの」

 その声の主は朝、病院で会った受付の事務の女性だ。

「君は兵頭病院の」

「あら、新聞記者の、あの……」

 歩けそうにない美也子をそのままにしておけずに狐堂は抱き上げた。

「あの、その、そんな格好はあの」

 さすがに相手はお姫様抱っこをされて恥ずかしくて顔を伏せ、赤らめている。

「少し先の駐車場におれのバイクが止めてある。家まで送るから我慢してくれ」

 狐堂にしてみれば、自分がぶつかったから相手が足をひねってしまったのだ。その点については責任を取らねばならないと思っている。盗られた財布にそれほど金は入っていない。警察も呼ばれているはずだから明日にでも被害届けを出せばいい。その財布はパスケースに小銭入れがついたもので、パスケースには残高のほとんどないスイカと、古い写真が入れてある。残高のほとんどない新聞社の支給品のスイカなどはどうでもいいが、写真だけは取り戻したい。

 美也子をバイクの後ろに座らせてゆっくりと発進させる。彼女のマンションは河口湖畔から富士吉田方向に少し行った所にあり、それほど遠くないので助かった。

「手当てをしようか」

「大丈夫です。私、看護婦じゃないけど病院勤めだから、応急処置くらい出来ますから」

 そういうと手際よくシップ薬を貼り、包帯を巻く。狐堂も危ないことをしてきた経験上、傷の手当てには慣れているが、年頃の女性の足をなでまわすような行為は躊躇する。

「何か飲み物でも出しますね」

「いや、けが人を動かす趣味はない」

 かといって狐堂に他人のキッチンを勝手に使う趣味もない。とりあえず義務は果たしたと考えて祭に戻るつもりでいたら、電話が鳴った。電話はキッチンに親機子機ともにあり、足をひねった美也子の代わりに子機の方をとって渡してやる。

「はい、ええ、そうですが……」

 美也子は深刻そうに話を聞いている。

「うそ、そんな、本当に大山さんなんですか。そんな……。ええ、すぐ出ます」

 電話を切ると包帯が巻かれた足で立ち上がろうとする。

「無理するな、今、ひねったばかりだろう」

「でも大山さんが行方不明になったらしいの。探しに行かなきゃ」

 その声は切迫し、尋常ではない。

「どういうことだ」

「大山さんはうちの患者さんで、四日前に手術をしたばかりなの。昨日の夜に錯乱を起こして、それで鎮静剤で落ち着いたはずなのに、ベッドを抜け出して外に出ちゃったの。今日は湖上祭で、症状の軽い患者さんは付き添いがあれば外出が出来るから、それに紛れて出て行っちゃったんじゃないかしら。どうしましょう」

 美也子は顔面蒼白でうろたえていた。よほどその患者が危険な状態にあるのだろう。今にも飛び出さんばかりで、用意を始めた。狐堂はそれを見てため息をついて立ち上がった。

「おれが代わりに行く。これでもブンヤだ。人探しは慣れている」

 女性の部屋に夜中とは言えないまでも、陽が落ちた後にいるのはやはり気が引ける。一つ部屋で二人きりとなると、いくら新聞記者としていろいろな修羅場を潜り抜けてきた狐堂といえども、気を使わずにはおられない。しかも美也子は二十台の知的な美人であり、背も高くスタイルもいい。三十二歳独身の男が気軽に寛いでいいはずはない。むしろ事件が起きてくれた方が孤堂にとって気が楽だ。

 外に出てバイクにまたがると、もとの記者に戻れる。病院からの失踪、管理体制はどうなっているのか、病院の手落ちはないのか、ことが重大なほうに進まないか、そんなことを考えながら西湖に向かった。


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