兄妹

 それから一週間が過ぎて、ポストさんが明斗くんの手紙を届けてくれました。明斗くんは、森の家のおばあさんの孫の中学生です。

 手紙には、冬休みにコーチやクラブのみんなといっしょに森に練習に行くから、駅員さんやマレ駅長に久しぶりに会えるのが嬉しいし、ムン見習い駅員に初めて会うのも楽しみですと書いてありました。

 明斗くんはクロスカントリーのクラブに入っていて、来年の大会の選手の一人に選ばれていたのです。手紙には明斗くんが妹の光ちゃんを抱っこしている写真も同封してありました。


 写真を見ながら、駅員さんは仲良しなところがマレとムンにそっくりだと思いました。おばあさんの最後の手紙にも「マレちゃんも優しいおにいちゃんになって、小さな妹のムンちゃんのお世話をしているんでしょうね」とありました。おばあさんも駅員さんも思うことは、いっしょです。


 駅員さんは明斗くんと光ちゃんの写真を、駅舎の机の上のマレとムンの写真の横に置くことにしました。

 二枚の写真を見ていると、駅員さんの中でさまざまな思いが巡りました—— 彼女は今どこにいるのだろう。森の家で暮らした記憶を持って行ったのだろうか。それとも、前世のように記憶を消しているのだろうか……。



 相変わらずおばあさんの旅立ちから立ち直れない駅員さんでしたが、日が経つに連れて、二度と会えないとは思わなくなりました。記憶があってもなくても、いつか、どこかで会える予感がしてならないのです。

 それは次の転生やその次の転生ではなく、もっともっと転生を繰り返した先。長い長い時間の旅路の果てのような気もします。


 確かな根拠はありません。ただ、おばあさんの手紙の最後にあった「いつか、また、きっと」という三つの言葉が、よすがといえばよすがなのでした。


 駅員さんには記憶があるが故に前世からのことに思えるだけで、もしかしたら二人の絆は遥か以前、ずっと昔から続いているのかもしれないのです。

 どこかの前世では、二人はマレとムンのような、明斗くんと光ちゃんのような兄妹、あるいは姉弟だったのかもしれません。

 同じ一本の彼岸花でなくとも、隣り合って咲く花なら、それはお互いがまみえる縁があるということです。

 そう思うようになって、駅員さんの気持ちは少しだけ軽くなりました。



 だけど、やっぱり彼女には森の家の記憶を残しておいてほしいし、すぐにでも会いたいし、今ごろはどこの世界でどうしているのだろうと、毎日空を見上げて考えずにはいられない駅員さんでした。



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