十月

準備期間

 10月も下旬近くなると森の木々も色付き始め、そろそろ秋の行楽シーズン。

 休日になると、街の人たちがハイキングや紅葉狩りにやってくる季節です。


 駅員さんにとっては、春の行楽シーズンと並んで忙しい時期ですが、街の人たちが秋の森の美しさに目を見張り、楽しそうに列車を乗り降りするのを見るのは、とてもうれしいことでした。

 その人たちのために、桑の木駅にも記念のスタンプが置いてあります。多くの人が友人や自分宛のポストカードにスタンプを押して、駅の前の郵便ポストに入れていきました。

 季節が良いと、駅員さんだけでなく郵便ポストも、いつもより忙しくなるのです。




 駅員さんの勤務する銀河鉄道には、たくさんの路線があります。それぞれの路線は別の世界と別の世界を繋いでいます。


 虹の橋と地上を繋いでいるのが、虹の架け橋路線。虹の架け橋や地上のターミナル駅にも、数多くの路線が乗り入れています。乗客たちは虹の橋の街や地上に降り立つだけでなく、ここから色々な世界に出発して行けるのです。

 路線沿いに住む人たちや生き物たちのほとんどは、まだ別の世界に出発する準備や支度が完了していないか、順番待ちの人やものたちでした。犬のマレもそうです。もっともマレは虹の橋に直行するのが嫌で、脱走して桑の木駅に住み着いているので、ちょっと事情が異なりますが。


 この沿線沿いの世界を別の言葉で言えば、「煉獄」や「三途の川のほとりの待合所」。あるいは「冥界のステュクス河やアケローン川の休憩所」といったところでしょうか。

 もともと良好な関係にあった人と生き物が利用する路線ですから、多少は波風があるとはいえ、他の路線沿いの区域とは違ってそれほど過酷でもなく、その日常も地上とほぼ変わらないのでした。



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