いつか、また、きっと
手紙
昨日、おばあさんからの小包と最後の手紙をポストさんが届けてくれました。おばあさんの遺言どおりに、家族が駅員さんに送ってくれたのです。
桑の木駅 駅員さま
駅長マレさま
見習い駅員ムンさま
こんにちは。
駅員さんも、マレちゃんも、そして、マレちゃんに新しくできた妹のムンちゃんも、お元気ですか。
わたしは、元気です。駅員さんがこの手紙を読むころには、わたしはようやく病んだ体から解放されているはずだからです。
もう自由です。始発駅からどの列車に乗って、どこまで行きましょうか。
わたしが森の家に来る前にいっしょに暮らしていた猫の名前もムンといって、とても綺麗な黒猫でした。でも、ある日、突然いなくなってしまいました。
マレちゃんの妹が小さな黒猫ちゃんで名前が「ムン」と聞いて、なんだかとても嬉しくなりました。
二番目の孫の光は、すくすく成長しています。
光のおにいちゃんの明斗も、よく病院に来てくれました。
光と明斗は十三も歳が離れているので少し心配していましたが、明斗は面倒見のいい優しいおにいちゃんで、ほっとしています。
きっとマレちゃんも優しいおにいちゃんになって、小さな妹のムンちゃんのお世話をしているんでしょうね。
病院では駅員さんが作ってくださった桑の木のスプーンを、毎日使っていました。
桑の木のスプーンは桑の木駅から続く森のにおいがして、わたしがこの地に来てから住んでいた家を忘れずにいられました。
もうすぐ、光も駅員さんのスプーンで離乳食を食べはじめます。明斗も、光がスプーンを使い始めるまで、自分のスプーンを使わずにいます。おそろいのスプーンで、いっしょに食事ができるまで取っておくんだと言って、楽しみにしているようです。
もう一度、お会いしたかったです。
駅員さんからのお手紙は嬉しかったけれど、少し悲しくなりました。やはり、お手紙だけでは桑の木駅や森への恋しい想いが呼び起こされるだけで、寂しさを埋めることはできません。
駅員さん手製のマルベリージャムなら、わたしにはどんなジャムやコンフィチュールより美味しかったはずです。
来年の桑の実の季節のために、改めてジャムのレシピを書いておきます。
材料
桑の実
おさとう 桑の実の重さの三分の一から四分の一くらいの重さ
レモンをしぼった汁
桑の実をよく洗い、汚れを落として、ヘタを取ります。
ホウロウのなべに入れて、おさとうをまぶします。
しばらく置いて果汁が出てきたら、中火にかけて焦がさないよう気を付けながら煮つめます。
好みのジャムのかたさになったら、レモンをしぼった汁を入れて、火を止めます。
少し冷めたら、ガラスビンに入れます。
保存のために、ガラスビンは煮沸消毒してください。めんどくさそうですが煮沸したビンはあっという間に乾きますよ。
お砂糖は駅員さんの好きな甘さで加減してください。お砂糖を多くすると、日持ちがします。
いつか、また、きっとお会いできることを。
みのり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます