マレが自分の身に起こった出来事をどうにか理解できたのは 虹の橋行きの渡し舟に乗ってからでした。

 でも、なぜ虹の橋行きの舟に乗っているのかまでは、理解できませんでした。


 この舟の行き先は、地上で幸せに暮らしたペット—— 伴侶動物たちが、飼い主との再会を待っている場所です。

 マレは二度と元飼い主の人間たちに会いたくはありません。だから、そんな所には絶対に行きたくありません。

 それで、うのていで逃げ出して、行き着いた先が銀河鉄道の桑の木駅でした。



 駅から続く森はとても美しい場所でしたが、たくさんの木があることに変わりありません。どうしても林の中のバイパス道路や跨道橋こどうきょうを思い出して居ても立っても居られなくなります。

 マレが大嫌いなのは桑の木駅の森ではなくて、あの林だったのです。



 マレは前世の最後の最後にあの林で、母猫の頼みを聞き仔猫を助けました。

 マレの取った行動の善悪はそれを見る立場によって異なります。

 人間の立場から見るか。

 母猫と仔猫の立場から見るのか。

 ただ言えるのは、あの猫たちには会いたい人間がいたということです。その人への猫たちの想いが、頼みを聞き届けてくれたマレを虹の橋に呼び寄せたのです。

 あとは、マレ本来の気質のせいでした。あんなに飼い主からネグレクトや虐待を受けていたのに、優しく気の良い性格がほとんど損なわれていなかったのです。



 桑の木駅に住むようになって最初に小学生の集団を見たとき、マレはおびえて、歯を剥き出し唸り声を上げました。

 でも、そこに配達と集荷に来ていたポストさんがいて「だいじょうぶ。あの子たちは駅員さんと友だちだよ。だから、マレ駅長とも友だちだ」とゆっくり何度も繰り返して、マレを落ち着かせてくれました。

 引率の先生たちも犬のことをよくわかっていて、小学生たちが初対面の犬にいきなり駆け寄ったり歓声を上げたりしないようにしてくれました。そんなおとなたちの対応で、マレは子どもたちにも慣れ子どもたちを大好きになって、駅のアイドルになりました。なんといっても、桑の木駅は虹の架け橋路線にあるのですから。



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