マルベリージャム
マルベリージャム 1
今年の桑の木は、いつもの年にも増して実をたくさんつけました。赤から黒に熟した実を、駅員さんは試しに一つ食べてみました。
毎年おばあさんはこの実でジャムをたくさん作ってくれたので、桑の実の季節には駅のお店にも美味しいマルベリージャムが並びました。
おばあさんは作ったジャムをガラス瓶に詰めて、蓋には一つずつ丁寧に編んだレースのカバーをかぶせました。まるで森のこびとや妖精が作った瓶詰めのようでした。毎年楽しみにしている人たちの中には、もちろん駅員さんもいました。
でも、今年はお花や編み物と同じように、ジャムの瓶はどこを探してもありません。
駅員さんは桑の実で果実酒なら作ることができましたが、ジャムは作ったことがありません。その果実酒の作り方も、桑の木が初めて実をつけた年に、おばあさんが教えてくれたのです。
桑の木を見ながら駅員さんは、おばあさんが入院生活で森を恋しがってはいないだろうかと気掛かりでした。
孫の赤ちゃんは、もう退院しています。とても元気な女の子で、街のおうちですくすく育っているそうです。ポストさんが届けてくれたおばあさんからの二通目の手紙に書いてありました。手紙は「もう桑の実の季節ですね」という書き出しで始まっていました。
明日はちょうど公休日です。おばあさんのお見舞いに行って、ジャムの作り方を訊いてこようかと駅員さんは思いました。
「ジャムが美味しくできたら、そのジャムを持って、またお見舞いに行けばいい」
それはとても名案に思えました。
駅員さんが私用で桑の木駅の外に行くのは、本当に久しぶりです。この前、出掛けたのはいつだったのか、すぐには思い出せないくらいでした。
マレは駅員さんの考えていることがわかったらしく、「わん」となきました。
「ダメだよ。マレはおばあさんのいる病院には入れてもらえないから、いっしょには行けないよ。だから、明日はお留守番だ」
マレは不満げに「くぅん」と鼻をならします。マレだって、大好きなおばあさんに会いたいのです。
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