【第7話 爺の記憶と、黒い爪痕】

ギルドの一角。調査報告の書類を提出したゴブたちは、受付嬢のカーラに呼び止められた。


「昨日提出された“焦げ跡の写真”……ギルド本部の記録と一致しました」


「一致? 何と、なのだ?」


カーラは真剣な表情で答える。


「十数年前に消息を絶った討伐隊の最後の痕跡と、酷似しているんです。最近、その周辺で動物の失踪や黒い煙の目撃報告も増えていて、調査が急がれています」


言い淀む彼女に、ミレイが一歩踏み出した。


「――その調査に、私たちを補助員として同行させてほしいってことですか?」


カーラは頷いた。


「依頼そのものは準上位任務ですが、今回は“地域事情に詳しい地元案内者”という枠で、仮参加の打診がありました」


「地元……なのだ?」


「あなたが『焦げ跡』を見た瞬間、何かを思い出したようだった。その反応が、調査班の上官の目に留まったのよ」


ゴブはうつむいて、拳を握った。


「爺が、言ってたのだ……火を吐く魔物と戦った場所には、草すら生えなくなるって」



その夜。宿の焚き火を囲んで、三人は静かに座っていた。


「ゴブ、爺の話、聞きたい」


シンの一言に、ゴブは小さく頷いた。


「昔、爺はエルダーゴブリンだった。勇者様の従者として、大きな旅をしてたのだ。だけど、ある日、真っ黒な火を吐く魔物と戦って……それが、最後の戦いだったのだ」


語りながら、ゴブの表情はどこか寂しげだった。


「爺は、その場所にだけは絶対に近づくなって、言ってたのだ」


焚き火の炎が、静かに揺れる。


「でも、行くのだ。ゴブ、知りたいのだ。爺が何と戦って、なぜあんなに寂しそうだったのか……」


少しの沈黙の後、ミレイが口を開いた。


「……私も、ゴブさんのこと、もっと知りたいです」



翌朝。ゴブたちはギルドに向かい、「仮調査同行者」としての申請を済ませた。


「これで、調査隊に帯同する資格ができました。出発は三日後。準備を万全にしておいてください」


カーラの言葉に、三人は頷く。


「逃げてたら、前に進めない気がします」


ミレイの言葉に、シンが笑った。


「そうだな。俺たち三人なら、きっと大丈夫だ」


ゴブはゆっくりと拳を握る。


「爺の話は、ただの昔話じゃなかったのだ。だから、行くのだ。少しでも、近づくために」

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