【第6話 ゴブ、はじめての依頼チーム】
ギルドの朝。カウンターで相談していたゴブのもとに、明るい声が響いた。
「おはようございます、ゴブさん」
振り向けば、紫の三つ編みが揺れる。ミレイが、白い薬師の上着をまとって立っていた。
「今日は、おひとりですか?」
「う、うん。シンはまだ寝てるのだ」
ミレイはふっと笑うと、手にした書類を差し出した。
「実は、簡単な薬草採取の依頼があって……もし良かったら、いっしょに、どうかと思って」
少しだけ視線を逸らしながらも、まっすぐに差し出されたその申し出。
ゴブは、しばし悩んだ末に頷いた。
「わかったのだ。でも、ゴブひとりじゃ心配だから……シンも、誘うのだ」
*
三人で受けた依頼は、「ブリス草」という稀少薬草の採取だった。
問題は、その近くに酷似した毒草「ブリズ草」が生えていること。
「見た目はそっくりだけど、匂いと根の切り口で見分けられる。だから、注意深く行動しないと……」
ミレイが説明し、ゴブがうなずく。シンは頭を掻いて笑った。
「なんか、今日のリーダーはゴブだな」
「えっ……ゴブ、リーダーなのだ?」
「うん、こういうの得意だろ? 俺はサポートに回るよ」
少し戸惑いながらも、ゴブは前に出る。
「じゃあ、行くのだ」
*
森に入って数十分。三人は手分けして薬草を探していた。
「こっちにそれっぽいのが……あっ!」
ミレイが前のめりになって倒れかけた瞬間、ゴブが手を伸ばして引き戻した。
「だめなのだ! それは、毒の方なのだ!」
「ご、ごめんなさい……匂いが弱くて、うっかりして……」
「ゴブ、昔爺に教わったのだ。根の断面に青い筋があるのは、毒の証なのだ」
ゴブの手元にある切れ端を見て、ミレイは驚いたように目を見開いた。
「すごい……そんなところまで、見てたんですね。ありがとう、ゴブさん」
そのとき、奥の茂みから小さな獣の唸り声が響いた。
「こっちに何かいる……!」
現れたのは小型の魔獣「スラッグリンク」。
普段は臆病だが、繁殖期には縄張り意識が強くなるという。
「囲まれると危険なのだ。ここは、シンが囮になってくれるのだ」
「ちょ、勝手に決めんな!……けど、やるよ!」
シンが小枝を投げて魔獣の気を逸らす。
その隙にゴブが誘導し、ミレイが手製の煙玉で退路を作った。
三人は連携して、無事にその場を離脱した。
*
依頼の薬草を集め終えた三人は、大きな木の根元に腰を下ろし、息をついた。
「ふぅ……緊張したけど、なんとか無事に終わったのだ」
「うん……疲れたけど、楽しかった……。一緒にいると、不思議と安心するんです……魔物なのに、変ですね」
「変じゃないのだ。きっと、これが仲間というやつなのだ」
ミレイは小さく笑い、「……うん、そうかもしれません」とそっと呟いた。
*
帰り道。ゴブの目があるものを捉えた。
「……焦げ跡?」
そこには、地面に残る黒い焼け跡と、古びた剣の破片が落ちていた。
「爺が昔……言ってたのだ。『火を吐く魔物と戦った場所には、草すら生えなくなる』って」
三人は足を止め、風の音に耳を澄ませた。次の物語が、静かに近づいていた。
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