【第6話 ゴブ、はじめての依頼チーム】

ギルドの朝。カウンターで相談していたゴブのもとに、明るい声が響いた。


「おはようございます、ゴブさん」


振り向けば、紫の三つ編みが揺れる。ミレイが、白い薬師の上着をまとって立っていた。


「今日は、おひとりですか?」


「う、うん。シンはまだ寝てるのだ」


ミレイはふっと笑うと、手にした書類を差し出した。


「実は、簡単な薬草採取の依頼があって……もし良かったら、いっしょに、どうかと思って」


少しだけ視線を逸らしながらも、まっすぐに差し出されたその申し出。

ゴブは、しばし悩んだ末に頷いた。


「わかったのだ。でも、ゴブひとりじゃ心配だから……シンも、誘うのだ」



三人で受けた依頼は、「ブリス草」という稀少薬草の採取だった。

問題は、その近くに酷似した毒草「ブリズ草」が生えていること。


「見た目はそっくりだけど、匂いと根の切り口で見分けられる。だから、注意深く行動しないと……」


ミレイが説明し、ゴブがうなずく。シンは頭を掻いて笑った。


「なんか、今日のリーダーはゴブだな」


「えっ……ゴブ、リーダーなのだ?」


「うん、こういうの得意だろ? 俺はサポートに回るよ」


少し戸惑いながらも、ゴブは前に出る。


「じゃあ、行くのだ」



森に入って数十分。三人は手分けして薬草を探していた。


「こっちにそれっぽいのが……あっ!」


ミレイが前のめりになって倒れかけた瞬間、ゴブが手を伸ばして引き戻した。


「だめなのだ! それは、毒の方なのだ!」


「ご、ごめんなさい……匂いが弱くて、うっかりして……」


「ゴブ、昔爺に教わったのだ。根の断面に青い筋があるのは、毒の証なのだ」


ゴブの手元にある切れ端を見て、ミレイは驚いたように目を見開いた。


「すごい……そんなところまで、見てたんですね。ありがとう、ゴブさん」


そのとき、奥の茂みから小さな獣の唸り声が響いた。


「こっちに何かいる……!」


現れたのは小型の魔獣「スラッグリンク」。

普段は臆病だが、繁殖期には縄張り意識が強くなるという。


「囲まれると危険なのだ。ここは、シンが囮になってくれるのだ」


「ちょ、勝手に決めんな!……けど、やるよ!」


シンが小枝を投げて魔獣の気を逸らす。

その隙にゴブが誘導し、ミレイが手製の煙玉で退路を作った。


三人は連携して、無事にその場を離脱した。



依頼の薬草を集め終えた三人は、大きな木の根元に腰を下ろし、息をついた。


「ふぅ……緊張したけど、なんとか無事に終わったのだ」


「うん……疲れたけど、楽しかった……。一緒にいると、不思議と安心するんです……魔物なのに、変ですね」


「変じゃないのだ。きっと、これが仲間というやつなのだ」


ミレイは小さく笑い、「……うん、そうかもしれません」とそっと呟いた。



帰り道。ゴブの目があるものを捉えた。


「……焦げ跡?」


そこには、地面に残る黒い焼け跡と、古びた剣の破片が落ちていた。


「爺が昔……言ってたのだ。『火を吐く魔物と戦った場所には、草すら生えなくなる』って」


三人は足を止め、風の音に耳を澄ませた。次の物語が、静かに近づいていた。

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