第6話 それぞれの調査

 アーツとレンクスは、今日も航宙船の外を探索している。

 昨日みたいなことが内容に、周りには十分注意を払っている。


「昨日のでっかい奴といい虫といい、気になるものは多いが、なんだこの暑さは……」


「そんなに暑いとは思わないが、むわっとした感触のせいで暑く感じるんだな。これって確か、蒸し暑いってやつか」


 文句を言いながら、二人は近くをずんずんと歩いていく。

 特に目印になるものもないので、あまり離れすぎてしまうと航宙船のある元の場所を見失いかねないので、時折閃光剣で地面に印をつけながらの移動である。


「まったく、護身用の武器をこんな使い方するとはな……」


「迷子になるよりマシだろ。こんな見たこともないような場所で朽ち果てるくらいなら、どんなことをしてでも生き延びてやる方が断然いいんだ」


 レンクスに言われて、アーツははっとする。


(俺は、今弱気になっていたのか……?)


 そう、思わず弱音を吐いていしまっていたことに気が付いたのだ。

 自分が旅行に行こうと強引に連れてきた矢先に、このような事態に陥ってしまった。その責任を感じて頑張らなければならない自分が、このように弱気になってどうする。

 アーツはいきなり自分の両頬を叩く。


「おい、どうしたんだ、アーツ。まさかおかしくなったのか?」


 突然の奇行に、レンクスはドン引きである。

 両頬を赤くしながらも、アーツは顔を上げてレンクスに告げる。


「正気だよ。俺のせいでみんなをこんな状況に巻き込んじまった。なのに、俺が今弱気になっていたから、気合いを入れ直したのさ」


 鼻血が流れているので、いまいち締まらないが、確かな気迫がそこにはあった。


「だが、まだ足りねえ。レンクス、お前も一発気合いの平手を寄こせ」


「本気か?」


「本気だ!」


 アーツがどうしてもいうものだから、レンクスは手を大きく広げてアーツの左頬を叩いた。


「おぶっ!」


 平手打ちを食らったアーツが吹き飛んでいく。

 それほど力を入れた覚えのないレンクスが呆然としている。


「はっ! アーツ、大丈夫か?!」


 すぐに我に返ったレンクスは、吹き飛んでいったアーツを心配して走っていく。

 アーツが吹き飛んでいった軌跡には、もうもうと土煙が上がっている。どれだけすごい威力だったのか、はっきりと分かるくらいだった。


「いててて……。こら、レンクス、力を入れ過ぎだ!」


 アーツはどうにか起き上がって頬を擦っていた。


「無事だったか、アーツ。いや、俺にも分からないんだ。あんまり力を入れた覚えはないんだが、どうしてこうなったんだろうかな」


 怒られているレンクスもまったく状況がつかめず、ご立腹のアーツを前に首を傾げている。

 首を押さえて座り込むアーツを前に、レンクスは自分の手を改めて見てみる。そこにあったのは、いつもと変わらない自分の手だった。


「まったく、お前が力自慢なのはよく分かった。次からは気を付けてくれよ」


「あ、ああ」


 アーツが立ち上がって、レンクスの胸に拳を当てながら話し掛けている。自分の状態に違和感を感じて気付くのが一瞬遅れたものの、レンクスはアーツの言葉に返事をしたのだった。


(一体何だった、さっきのは……)


 レンクスは違和感を拭いされぬまま、その日の探索を終えることにしたのだった。


 航宙船に戻ってきたアーツとレンクスは、さっぱりしてからニックたちと合流する。


「戻ったぞ。そっちはどうだった?」


「おかえりなさい、アーツ、レンクス」


「ニックの手伝いで航宙船の状態を調べてみたわよ」


 アーツが呼び掛ければ、ブランとクロノの二人が返事をしている。


「あれ、ニックは?」


「何か気にかかることがあるからって、まだ一人で調べているわ」


「やあ、戻ったかい、二人とも」


「おう、ニック。疑問は解消したか?」


 遅れて出てきたニックにレンクスが声をかけるが、ニックは黙り込んだままだった。しかも何か表情がさえない。

 気にはなるものの、アーツが取り仕切ってお互いの報告を始めるにした。


「外なんだが、思ったように湿気が多くて蒸し暑い。それから、空を飛ぶ生物は虫くらいで、鳥は見当たらない。哺乳類もいないみたいだし、本当に恐竜たちの時代に来たような感じだ」


「植物も軒並み大きいしな。安全性を航宙船に調べてもらって、大丈夫そうだったら食事に加えてみてもいいんじゃないだろうかな」


「そっかあ、外ってそんな風になっているのね」


 ブランとクロノは、驚いた様子でアーツたちの話を聞いている。


「それで、ニックの方はどうだった。直りそうか?」


 外の報告を終えたアーツがニックに報告を急かす。

 ところが、ニックの表情はなんとも言えないくらい硬い。

 あまりにも重苦しい雰囲気に、アーツとレンクスは何かあったのではないかとごくりと息を飲んでいる。

 やがて、ニックが顔を上げる。


「航宙船の状態だけど、驚かずに聞いてほしい」


「さっさと言えよ、もったいぶるな。どんだけ俺が借金してると思ってるんだ」


 アーツはかなり気になっているようだった。まあ、購入したてで一発目からこれでは、気持ちが落ち着かなくなるのはもっともな話だから。

 騒ぎ立てるアーツの態度に、ニックはため息をついて改めて前を見る。


「それじゃ、航宙船の状態を調べた結果を言うよ」


 両手をテーブルについてじっと前を見据えるニックの姿に、アーツたちは息を飲む。


「結論から言うと、航宙船はまったく故障していない」


 ニックの口から、衝撃的な言葉が飛び出たのだった。

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