第5話 遭難生活の始まり
翌朝、アーツたちは地響きで目を覚ます。
「な、なんだ!?」
「なにこの揺れ!」
あまりにも激しく揺れるために、アーツたちはベッドから抜け出して操舵室へと向かう。ここは唯一大きく開いた窓があるからだ。
操舵室のパネルをアーツがいじる。
そこに映し出された結果に、ひとまずアーツはほっとしていた。
「よかった。航宙船が攻撃されたわけじゃない。地響きが遠ざかってるってことは、何かがこの近くを通ったってことだ」
「もしかして昨日のやつか?」
「分からない。この航宙船のモニターで周囲を確認してみても、それらしき姿は見当たらないみたいだ。となると、映っていない場所からこれだけの地響きをもたらしたってことだな」
「怖いわ……」
アーツが冷静に分析していると、ブランが震えながらクロノに抱きついている。
「大丈夫よ、ブラン。私が守ってあげるから、ね?」
「クロノ……。でも、ケガはしないでね」
「分かってるわよ」
少女二人の美しい友情である。
「それはそれとして、この航宙船が直るまではここに滞在をせざるを得ない。俺たちは役割を分担して、しばらくここで生活することになりそうだ」
アーツが状況を説明すると、全員がこくりと頷いている。
「元はといえば、アーツが無理やり俺たちを旅行に誘ったせいだが、あの宇宙嵐は誰にも予測できない。ならば、ここは一致団結して、元の場所に戻る方法を探さないとな」
レンクスが続けて発言すれば、これにも全員が納得の上で頷いている。
「航宙船の修理は得意だっていうニックに任せて、ブランとクロノは船内のことを頼む」
「それはいいんだけど、アーツたちはどうするの?」
アーツが分担を指示し出すと、クロノが疑問をぶつけてきた。
その疑問に、アーツは表情を引き締めている。
「俺とレンクスは航宙船の周りを昨日同様に調査を行う。この場所の情報が必要になるかもしれないからな」
「多少のデカブツくらいなら、俺たちが本気でやりゃあ大したことないさ。なあ?」
「ああ、これでもいざって時の戦闘訓練は少し受けているからな。昨日みたいな化け物も返り討ちにしてやるよ」
「だな。俺たちには閃光銃と閃光剣がある。デカブツとはいっても、文明の利器には敵うまい」
アーツとレンクスが自信たっぷりに話をしている。
あまりにもぎこちない動きに、クロノとブランが笑っていた。
「二人とも、調子に乗るのはいいですけれど、あの虫にかまれてたんでしょう? 油断なんて許されるはずがないんですから、もっと気を引き締めて下さい」
ただ一人、昨日アーツの足をかんだアリを見ていたニックが苦言を呈している。
警戒のあまり意識が向いていなかったとはいえ、死角から襲われたのだ。あまり大きなことを言っている場合ではないと、警告しているのである。
「わ、分かったよ。次からは気を付けるからさ」
怖い雰囲気で近付いてくるニックに、アーツは必死に弁明をしていた。
ひとまず役割を確認した五人は、朝食を平らげてそれぞれ行動を始める。
だが、その前にブランがアーツに声をかけてきた。
「ごめんなさい。昨日襲われたった虫、見せてもらってもいいかな?」
どうやらブランは、アーツの足にかみついたという虫が気になるようだ。
「ブラン、そんなに見たいのか? 言っておくけど気持ち悪いぜ?」
「うん、分かってる。でも、なんだか気になっちゃって……」
ブランがかなり執着しているようで、アーツはニックと相談した上で返事をすることにした。
調べ終わった虫は、ニックと相談した後であの部屋の中でしっかりと保存してある。持って帰って本格的な研究がしたいというニックの願望に押し負けたからだ。
そしたら、今度はブランがその虫を見てみたいと言い出したのだ。ニックも困った顔をしていたものの、ちょっとだけならという理由でブランの申し出を了承したのだった。
アーツとニックは、ブランを連れて昨日のアリをしまい込んだ部屋へとやってくる。
ニックが操作をすると、目の前までその虫が運ばれてきた。
「航宙船の分析ではアリということですね。触角とあごなどの特徴からして、ほぼ間違いないでしょう」
目の前にいる六本足の虫は、見れば見るほど気持ち悪くなってくるアーツである。おそらく、足をかまれたからだろう。
「アーツ、足を見せてもらってもいい?」
「ああ、かまれたのは左足のふくらはぎだ。航宙服を着ていたから問題はないはずだけどな」
「確かにそうかも知れないけれど、一応治療はした方がいいかと思うよ」
「分かった。すぐに受けるよ」
ブランがかなり強く訴えてくるので、アーツは仕方なく医務室へと向かうことにした。
部屋を出る時、アリをしまい込もうとするニックの姿を、ブランはじっと見ていた。
(なんだろう。あのアリになぜか強く惹かれる気がする。不思議なくらい気持ち悪いとも感じなかったし、私、どうしちゃったのかしら……)
そう、ブランはニックよりもアリの方がものすごく気になっていたのだ。
ただ、その理由が今のブランには分からなかった。
(うん、気のせいよね)
ブランはそう結論付けて部屋を後にしたのだった。
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