第7話 不思議、不可思議、摩訶不思議

 航宙船の損傷状態を調べていたニックは、衝撃的な事実を告げていた。


「航宙船はまったく故障なんてしていないんだ」


「なんだってー?!」


 アーツは耳が痛いくらいの大声で驚いている。

 それもそうだ。宇宙嵐に見舞われた上に、このどこかも分からないような場所に胴体着陸をしたのだ。

 普通ならば何か所も故障をしていそうな状況だというのに、なんと航宙船はまったくの無傷なのだという。誰がそんなことを信じられるというのか。

 みんなそう思うだろうが、説明しているニックが一番感じていることだ。調べながら、一体何度思ったことだろう。

 ところが、実際にこれといった損傷はなかった。

 その一方で不可解な現象も見られた。

 故障がないというのに、失われている機能というものがいくつもあったからだ。壊れていないのに作動しないということである。

 具体的にどこかというと、次に挙げる機能らしい。

 ひとつが音声ガイダンス。

 宇宙嵐が発生する時にはきっちり動作していたはずなのに、不時着後は一切音声を発していないのだ。

 次に、救難信号。

 宇宙嵐に巻き込まれて、不時着もしたのだが、これまたやっぱり機能していないのだ。

 そして、最後が飛行機能だ。

 ニックは離陸のためのスイッチを押したのだが、ちゃんと起動するものの飛び立つことはできなかった。

 エネルギーの問題かと思って確認したのだが、エネルギーはそれほど消耗していない。まったくもって離陸できない理由は不明だった。


「つまり、俺たちはこの場所に原因不明の何かによって閉じ込められたってことなのか?」


「そういうことだろうね。科学技術の発達この時代に、そんな不可思議な現象、信じたくもないんだけどね。故障の形跡がないのなら信じざるをえないよ」


 ニックは両手の平を上に向けて、首を左右に振っている。まったくもってばかばかしいことだと言っているようだ。

 しかし、現に外部との連絡手段をすべて断たれてしまっている。これだけで、まだ幼い少年少女を絶望の淵へと叩き込むには十分だった。


「外部との連絡手段が全滅している以外は、すべての機能が生きてるんだよな」


「うん、そうだね。クロノを見ても分かる通り、ケガをして治療できているもの。お風呂も入れるし、食事だってできる。生活自体は問題なさそうなんだよ」


 アーツが確認をすると、ニックは長々と答えていた。


「この場所の大気中から水を作り出すこともできるようだし、逆に不気味に思えてくるよ」


「そうね……」


 ニックが考え込むようにしながら呟くと、ブランは少し不安そうな様子を見せている。

 どうして自分たちがここに閉じ込められてしまったのか、今いる場所は一体どこなのか、外にいる生物はなんなのか。そのすべてが謎に包まれているのだから、不安に感じない方がおかしいのである。


「しかしだ、ずっとここにいるわけにもいかない。頼れる者もないし、俺たちだけで周辺を調査して、戻るための手がかりをつかまなきゃな」


「ああ、まったくだぜ。なんとしても、元の場所に全員で帰らないとな」


 レンクスの言葉に、アーツも同調する。両手をがっちりと突き合わせて、気合十分のようだ。

 話し合いの結果、当面はニックは航宙船の更なるチェック、ブランとクロノの二人で料理の支度やら航宙船内の雑用、アーツとレンクスの二人で周辺の調査という形に決まった。結局、昨日と変更なしである。

 ある程度の安全が確保できたのなら、さらに調査範囲を拡大することに決定した。

 その調査には、食べられる植物があるかということを調べることも含まれている。

 航宙船に蓄えられている食事は、一日三食としてひと月分だ。長期化した場合、食事を賄いきれなくなってしまうのは明らかである。

 だからこそ、食糧確保というのは重要な役割なのだ。


「くそっ、しょうがねえな。力のある俺たちだからこそってことか」


「まあやってやるよ。これでも宇宙軍志望なんだからな。戦う覚悟くらいできているさ」


「こんな形で経験することになるとは思わなかったがな」


 決まった役割とはいえ、アーツとレンクスの二人は不満そうだった。


「本当頼んだよ、二人とも。僕はもう少し航宙船を調べてみる。離陸できなくても地上を移動できるような機能があれば、二人の負担を減らせるはずだからね」


「頼むぜ、ニック」


「うん、機械いじりが得意な僕の実力、見せつけてあげるよ」


 この時ばかりは、貧弱な眼鏡っ子であるニックが頼もしく見えるアーツたちだった。


 その日の夜、明日からの本格的な調査を前にゆっくりと体を休めるアーツたち。

 ところが、その日のアーツはなかなか寝付けなかった。


(なんだ、この体の感覚は。何かが湧きたってくるような、不思議な感じがする……)


 正体不明の感覚に不快感を示している。

 それだというのに、なぜか嫌な気持ちにはならなかった。気持ち悪いのに心地が良い、そのような感覚にとても寝付ける状態ではなかったのだ。


(くそう、明日から本格的な現地調査だっていうのに……)


 何度も何度も寝返りを打つアーツだったが、さすがに眠らないのはまずいということで、頭からシーツをかぶって包まって耐えることにする。

 どのくらい耐え続けたのだろうか。突然、アーツを襲っていた奇妙な感覚が消え去る。

 まったくもってなんだったのだろうか。

 正常な状態を取り戻したアーツは、ようやく安心して眠りにつくことができたのだった。

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