Forever2「あなたが私に好きを教えてくれた」

 この日、僕とネリネは買い物のついでに街の部品屋に来ていた。ネリネに不具合が出始めてから、約一週間。医者には二週間で生活に支障が出て、一ヶ月経てば正常に機能しなくなると言われた。もう時間がない。


「あぁ、無理無理。そんな昔の部品はどこにもないよ」


 店員に部品がないか尋ねてみたが、やはりないらしい。可能性はゼロに等しいと分かっていながら、このような行動をしたことを思うと、やはり僕はネリネの終わりをまだ受け入れられていないのだと感じた。


「分かりました。ありがとうございます」


 そうして僕とネリネが店から出ようとしたとき。


「にしてもAIに恋愛感情を抱く人って実際にいるんだねぇ。AIのする行動なんて、全部仕組まれたものなのに、それに気付かず恋をするなんてアホにもほどがある」


 店員はわざとらしく大きな声で言ってきた。でも大丈夫。こういうのには慣れている。そう、慣れているんだ……。


「……かず、大丈夫?」


 少し店から離れたところで、ネリネが話しかけてきた。


「うん、大丈夫だよ……いや、どうかな。もしかしたら心のどこかで傷ついてて、それでも大丈夫だって自分に言い聞かせて、無傷のように装ってるだけなのかも」


 AIの行動は仕組まれていると店員は言った。それに対して否定したいと思っていても、完全に否定できないのが、とにかく悔しかった。ネリネは本当に自分の意志で動いているのだろうか。もしかしたら製造者のプログラム通りに動いているだけなのかもしれない。そんなこと考えたくないのに、勝手に頭の中で思考が巡る。


「和水、私は自分の意志で行動してるよ」

「え?」

「AIは学習したことをもとに行動するの。人によって生活の仕方とかは異なるでしょう? だからAIは学習して、その生活に合った行動をする。そしてそれは感情も同じ。酷いことをする人がいれば、その人は悪だと認識して嫌うし、逆に優しい人のことは好きになる。人は十人十色だけど、それはAIも一緒。決して仕組まれてるっていうことじゃないよ? それに──」


 ネリネは僕の目を真っ直ぐ見て言った。


「和水が私に感情を教えてくれた。もし和水が悪い人だったら、私は和水のこと嫌いになってた。でも和水はいつも笑顔で、優しくて、私を幸せにしてくれる。だから私は好きになったの。和水──」


 その言葉は、優しく僕を包み込む。


「AIの私に、好きの感情を教えてくれたのは和水なんだよ」


 ネリネの言葉はいつも僕の心に深く刺さって、一生忘れないものになる。きっとこの言葉も僕の心に残り続けて、ネリネの生きた証になるのだろう。


「そっか……なんだか気持ちが楽になったよ。ありがとう」


 AIだろうが関係ない。僕と共に生きてくれたネリネのために、これからの時間を使おう。ネリネの終わりは確実に近づいてきている。だったらネリネが前に言ったように、最後に笑顔で終わりを迎えられるように、大切で温かい思い出をたくさん作るんだ。


「ネリネはさ、どこか行きたい場所とかあったりする?」

「行きたい場所?」

「そう。ネリネとの思い出、もっと作りたいから。どこでもいいよ」


 そう言うと、ネリネは無邪気な笑みでこちらを見てきた。


「それじゃあ、遊園地!」

「遊園地か、いいね」

「あとは水族館に動物園に映画館……行きたい場所、たくさんあるよ。あ、でも最後はお花畑がいいな」

「分かった。全部行こう。遊園地も水族館も動物園も映画館も。そして最後にお花畑ね」


 人間もAIも最後の瞬間がいつ来るかは分からない。ある程度の時期を予測することができても、何日後なのかは分からない。だから一分一秒も無駄にしてはいけないんだ。


「さっそく明日から行こうよ。どこから行きたい?」

「じゃあ動物園、水族館、映画館、遊園地、お花畑の順番で」


 大切な思い出を作るのは、ネリネが最後を笑顔で終われるようにするため。そしてもう一つ。それは僕がネリネのことをずっと忘れないようにするためだ。ネリネがいなくなった後も鮮明に覚えていられるように、最後の最後までネリネの笑顔を目に焼き付けておきたい。


「分かった。最後の最後まで、たくさん思い出を作ろう」

「うん。和水、これからもよろしくね」

「こちらこそ、よろしく」


 夕陽に照らされて街全体が赤く染まっていくと同時に、僕はネリネの手を握る。最後が近い、そう思いながら握るネリネの手はいつも以上に温かく感じた。


 ふと横を見ると、頬が赤く染まったネリネの横顔。それが夕陽なのか照れなのかは分からない。でも僕の視線に気づき、無邪気な笑顔を見せるネリネは世界で一番愛おしい。その事実に変わりはなかった。

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