第32話 ごめんね、ケンちゃん

「ただいま……」

 青い顔をしたケンちゃんが帰ってきた。疲れ切ってる感じだね。ホント、お疲れ様だよ。


「おかえり、ケンちゃん」

 ボクは玄関に行き、ケンちゃんを温かく出迎えた。ちょっと驚かせすぎちゃった、というのもあったから。


 ケンちゃんはボクを見てビクっとした。

 ボクはニコっと笑いかけた。いつもと同じように。


 ケンちゃん、ごめんねという言葉を心の中でそっと添えて。


 ケンちゃんは何も言わず、段差に座ると靴を脱ぐ。

 ボクはなんとなくそこに立っていた。だって、せっかくケンちゃんが帰ってきたのに……。ボクのためにシャベルを買いに行ってくれたケンちゃん。


 思っていた以上に時間がかかってしまっていたけれど、それくらいケンちゃんは頑張ってくれていた。


「ん……」

 ケンちゃんはボクに背を向けたまま、新しいシャベルが入った茶色い紙袋を床の上に置き、ボクの方に押す。


 ボクが取るわけでもなく黙って立っていると

「ん!」と強い『ん』になって、ちらっとボクの方を見る。


「もらっていいの?」と聞くと

「ん!」と答える。『ん』はそんなに便利な言葉じゃないと思うんだけど。なぜに『ん』なのか? 「うん」の「ん?」なのかな?


 紙袋を拾い上げると、

「……さっきは悪かった」と蚊が鳴くような声でケンちゃんが言った。めっちゃ聞き取りづらい。


「ボクも、ごめんね」

 謝らずにはいられなかった。


「ショウは悪くないだろ」

 下を向いてケンちゃんが言う。


「ううん。ごめんね」

 おっかなびっくり言ってみた。ちゃんと伝わらないと思う。だって、ケンちゃんは天狗の面をかぶったアレがボクだとは知らない。暗いとはいえ飛んで逃げたし。

 天狗のイメージとは知と違う白い翼だったけれど。


「ふっ」

 ケンちゃんは微笑みを浮かべてボクを見た。

 たまにカッコつけてるけど、いろいろ勘違いしてると思う。


 本当にいっぱいいっぱいごめんね、ケンちゃん……。

 ケンちゃんがおばあちゃんに晩御飯を作ってもらって食べている間に、ボクは打ち合わせ通り、ケンちゃんからもらったシャベルをおじちゃんのところへ持って行った。


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